少し前にNHKの有料動画サービス「NHKオンデマンド」に加入しました。
僕はほとんどテレビを見ない人間なので、これまでNHKがどんな番組を放送していたのか知らなかったのですが、大河ドラマやドキュメンタリー映像を中心になかなか充実していて値段以上の価値を感じています。
最近のお気に入りは「ドキュメント72時間」という番組。
2005年に「72時間」というタイトルで先行製作番組が放送され、その後番組名を現在の名に改めて2006年から第1期、2013年から第2期が放送されています。
番組の内容は毎回決められた場所で72時間にわたる取材を行い、そこに映し出されるさまざまな人間模様を放送するというもの。
テーマソングは松崎ナオさんの「川べりの家」。
現在NHKオンデマンドで配信されている一番古い回は、2013年5月3日放送の「旅立ちの新千歳空港」です。
新千歳空港は羽田便を抱える北海道の空の玄関口で、2013年当時は年間1600万人が利用していたおばけ空港です。
札幌市の南東約40kmに位置する国内線の基幹空港。2019年の旅客数は2459万人。
到着ロビーで撮影開始。ニセコにスノーボードをしに来た兵庫からの高校の同級生4人組からスタートしました。
社会人になれば昔の友人たちと一緒に旅行に行くなんてことはなかなかできません。それぞれ仕事も家庭もありますからね。彼らにとって本当に良い思い出になったでしょう。
次はお母さんを待つ娘さん。
普段は酪農の仕事で実家を離れられないお母さんですが、三日だけ休みをとって札幌の娘さんのもとに来たんだそう。
仕事をしながら、介護が必要な88歳のおばあちゃんのお世話もしている忙しいお母さん。
この家族には取材の最後の日に再び会うことになるのですが、娘さんは16年前にお母さんの反対を押しきって札幌でエステの仕事に就き、この短い滞在中にはじめて自分の仕事をお母さんに見せたようです。
「今日までありがとう」
これまでずっと言えなかった一言をお母さんに伝え、すっきりしていた娘さんが印象的でした。
昼過ぎ、新しくなったターミナルビルの土産物売り場が賑わい始め、たくさんのお土産を求める人たちでいっぱいに。北海道はとにかく食べ物がおいしいですね!僕も数年に1回は北海道に行きますが、その度にウニを食べまくっています。
出会ったのは北海道のおいしいものを金沢に嫁いだ娘家族にたらふく食べさせたいと、たくさんの食品を抱えるお母さん。ジンギスカンが袋一杯に詰め込まれていました。
鋼の錬金術師の作者荒川弘さんのように、北海道のお母さんは豪快な人が多いのかもしれませんね。素敵です。
夜11時。空港の戸締まりが始まり、翌朝の6時すぎまでロビーは閉鎖されます。
一人だけロビーに残っていて外に出されてしまった青年は、北海道の農業大学に留学している日系パラグアイ人。ペルーでツアーの通訳係をした帰りだそう。
まだ寒そうな3月の夜中に外に放り出されても全くへこたれておらず笑顔を浮かべていました。バイタリティーがすごいです。
彼の将来の夢は、日本で技術を勉強している畜産の分野でパラグアイで一番になり、南米の農業を変えること。7人兄弟の5番目で、家族の反対を押しきって日本へ来たそうです。
進んだ技術を吸収して祖国を豊かにしたいと目をキラキラさせて夢を語っていました。
そのほか、「日本の学生ももっと大きな夢を持った方がいい」「日本国内のことしか考えていない人が多い」と言っていました。
あれから7年の月日が経ちましたが、彼は夢を叶えたんでしょうか。
南米パラグアイは大豆、トウモロコシ、牛肉の世界有数の輸出国。大規模農家が農地の大部分を所有している一方、数は小規模農家が圧倒的に多く、それぞれの格差が問題になっている。
翌日7時。春休み最後の土曜日。
出発ロビーでの取材ではたくさんの別れが訪れていました。
東京へ向かう同僚や友人を見送る仲間。
これまで毎日のように会い側にいた仲間に、もしかしたら二度と会えなくなるかもしれない。
「もまれてこい!」
すごく寂しいけれどそれ以上に頑張ってほしい、という気持ちが伝わってきた素敵な別れでした。
そして、お昼に出会った家族は親子四世代14名の大家族。
普段は北海道と岐阜で離ればなれに暮らしていたけれど20年ぶりにみんなで集まったんだそう。
その理由は膵臓がんを患ったおばあちゃんが皆で一度会いたいと言ったから。
「身体に気を付けて」「頑張って」「元気でね」ひとりひとりと固く握手を交わすおばあちゃん。
「もう一回元気で岐阜にいきたいと思っているけど、もういけないかもしれない。諦めてはいる」
これで最後かもしれないと、家族が立ち去った後もずっとゲートを見つめていたおばあちゃん。
とてもとても大好きだった祖母のことを思い出しました。おばあちゃんが寛解してまた皆で集まれていたらいいな。
番組スタッフが最後に出会ったのは今日が仕事はじめの旅行添乗員。
「今日はじめての添乗なのでお客様を楽しませられるよう頑張りたい」
彼女ははじめての接客に見えないくらい大きな声で元気よく頑張っていました。
今も働いていたら立派な添乗員になっていると思います。
「旅立ちの新千歳空港」というタイトルどおり、出会いよりも別れを中心に描かれた回でした。
別れはどんなときでも悲しく辛いもので、空港はたくさんの涙があふれていました。
けれど、感謝や希望といったポジティブな感情も同じくらい存在していたように思えました。
ナレーターは鈴木杏さん。優しい声が心地よかったです。
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