重低音のアニメ効果音はなぜ増えた?作品に合わない効果音について

最近のアニメを見ていると、「効果音」が気になって仕方がありません。

特に作品やシーンの文脈を無視した画一的な重低音の使用や安易なデジタル効果音の使い回しが目立ち、シリアスな展開や繊細な場面が台無しになることも少なくありません。

具体例を挙げると、今放送中の『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』(ダンまち)の5期。内容を振り返るために1期から見返してみたんですが、2期、3期と効果音が少しずつ個人的に嫌いな方向へ変化していって…。

そして4期に至っては特に酷く、僕の苦手な「ドゥーン」「ブーン」「ピチュン」といったデジタル音の嵐でした。

最近では当たり前のように使われているこれらの効果音。いったいいつ頃からこんなに増えてきたのか、そして効果音に対する僕なりの考えを書いていきたいと思います。



アニメ効果音の変遷とその問題

デジタル効果音の台頭

昔のアニメ効果音はアナログ的な重量感と繊細さ、そして自然さがありました(もちろん当時も低品質なものは存在していましたが)。

その後、ゲーム的な効果音の影響を受け始めデジタル制作環境が普及してくるにつれてガラッと様変わり。2010年代中頃には今でもよく耳にするデジタル効果音のパターンが定着してきました。

特に顕著なのがスキルや魔法を使用する際の電子音と衝撃を表現する重低音です。今や人気作品でもデジタル効果音を使用するのが一般的になってきました。

個人的に効果音は生音が好き派なのでデジタル効果音に好意的ではありませんが、非日常的な表現には必要不可欠なのは認めます。

優れた使用例と問題点

また『鬼滅の刃』『呪術廻戦』といった多くの人々から高い評価を受けている作品は、デジタル効果音を多用しながらも独自の工夫や個性が見られ質の高さを感じました。

問題なのはシーンに合っていない効果音や量産型異世界アニメや低予算アニメでの安易な模倣です。

さらに深刻なのは近年ではYouTubeやSNSで安易に使用されているような低俗な効果音までアニメ本編に使用されるケースも出てきていること。

こうした効果音はアニメ作品としての品格を著しく損なうだけでなく、せっかくの物語の没入感を完全に破壊してしまいます。

重低音系の効果音と小山恭正氏

さて、デジタル・電子的な音もそうなんですが、特に気になるのが最近増えている「ドゥーン」「ブーン」といった重低音系の効果音

アニメだけでなく、最近のゲームやパチンコ・パチスロなどでもよく耳にするようになりましたよね。人気のある音なのかもしれませんが個人的にはどうも苦手です…。

この重低音系の効果音、いったいいつ頃からアニメで使われ始めたんでしょうか。

全ての作品を見ているわけではないので確実なことは言えないんですが、僕が見てきたアニメの中では小山恭正氏が音響効果を担当している作品でよく耳にするようになりました。

小山氏といえば『ジョジョの奇妙な冒険』や『PSYCHO-PASS サイコパス』など、数々の名作で音響効果を手掛けてきた人気音響効果技師さんですよね。

ジョジョではこれまで聞いたことがないような奇抜な効果音に驚かされたし、サイコパスでは近未来的な世界観を表現する電子音と現実の重みを持つ生音的な音とが絶妙なバランスで使い分けられていて作品の世界観を上手く表現していました。

彼が担当した作品では、2012年のガルパンやサイコパスあたりの作品ではそこまで重低音系の効果音は気にならなかったので、多分2013年の『東京レイヴンズ』くらいから多用し始めたのかもしれません。あの作品は効果音がかなり浮いていたので記憶に残っています。

最初は斬新な表現として面白いと感じていた重低音ですが、その後だんだんと使用頻度が増加していき、例えば『炎炎の消防隊』では戦闘シーンの度に「ドゥーン」「ブーン」という音が鳴り響き正直うっとうしく感じるようになりました。

全体的に見てもシーンに合わない電子音の使用が増えてきたように思います。

効果音の変化と作品への影響 ―SAOとダンまちの事例―

SAOにおける効果音の変遷

そして問題となる効果音の使用は『ソードアート・オンライン』(SAO)でも顕著になっていきます。

1期と2期は今野康之氏が担当し、デジタル音を使用しながらも剣戟の繊細さを損なわない効果音だと感じていました。

ところが劇場版『オーディナル・スケール』以降、音響効果が小山恭正氏に交代してから様子が変わっていきます。

不自然な場面での重低音やデジタル音の使用が増加し、特にアリシゼーション編の第21話「三十二番目の騎士」では物語解釈の問題や作画の酷さに加え、不快な効果音が相まって個人的に大きな失望を感じました。この回を境にしばらくアリシゼーションから離れてしまったほどです。

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『オーディナル・スケール』に関しては効果音の不自然さが気になったものの、「オーグマー」によるAR世界が舞台だったので、まあ納得できる部分もありました。

でもアリシゼーション編は話が違います。

現実世界との違いがほとんど分からないくらいリアルに作られたVRワールド(アンダーワールド)が舞台なので、ARや一般的なVRと同じような電子的な効果音はむしろ作品の設定に反していると感じます。

そもそもキリトが自分がアンダーワールドにいると気づくまでにかなりの時間がかかるほど、その世界は現実に近いものとして描かれているわけですから。

もしあんな不自然な音がそこかしこから聞こえていたら一瞬で仮想世界だと分かってしまいますよね。

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悪い意味での集大成は『War of Underworld』のバトルシーンでした。重低音とデジタル効果音が激しく主張しすぎて、せっかくの作画の迫力や声優さんの熱演に全く集中できませんでした…。

ダンまちシリーズでの変化

そしてダンまちも同じような道を辿ることになります。

1期は効果音の種類も多く、ファンタジー作品にふさわしい音響演出でした。しかし2期以降徐々に変化し、4期の深章厄災篇では問題の「ドゥーン」「ブーン」「ピチュン」といった画一的なデジタル音の使用が目立つようになっていきました。

さらに気になったのはシーンに合っているとは言い難い効果音の選択です。大好きな作品だけに、この変化には残念な思いを抱きました。時には見るのがツライと感じることもあったほどです。

 

これは完全な推測ですが、もしかすると小山氏は日本のアニメ作品をあまり見ていなかったり、担当作品についての理解が薄いのかもしれません。

その作品の世界観に合わせるというよりも海外の音楽やアニメをベースにした、自分の中での流行や好みの音を作品に組み込んでいきたいタイプなのではないでしょうか。

効果音と作品の調和 ―ジョジョの事例から―

ジョジョにおける効果音の特徴

ここで『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズについても触れておきたいと思います。

これまで小山氏のデジタル効果音について批判的なことを書いてきましたが、彼の作る効果音自体に否定的なわけではありません(好きな音ではないけど)。その好例がジョジョシリーズです。

ジョジョは第1部から小山氏による個性的な効果音で知られ、波紋や吸血鬼の能力など独特の世界観を音で表現してきました。

重低音の使用についても、例えばヴァニラ・アイスや億泰、康一のスタンド能力を表現するには非常に効果的だったと思います。

ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース エジプト編42話ヴァニラ・アイス

ジョジョの効果音には「やりたい放題」とも言える奇抜さや生々しさがあります。

しかし、これらの特徴的な効果音は作画やキャラクターの濃さ、物語の深みという作品自体の圧倒的な個性と見事に調和していました。

むしろジョジョという作品の強さを音で表現するためにはそれくらいの主張の強さが必要だったとも言えます。

模倣による問題

問題はこの手法が他作品に安易に流用されたこと。

効果音は本来作品に「合わせる」べきもので、ジョジョで効果的だった音が他の作品でも同じように機能するとは限りません

残念ながらこの当たり前の考えが見失われ、業界内での模倣の連鎖により「テンプレート」と化していったように感じます。

特に気になるのが予算やスケジュールの厳しい作品での使われ方です。「定番の演出」として安易に採用されているケースが多いんじゃないでしょうか。

さらに、デジタル音源が普及して効果音ライブラリの使い回しが簡単になったこともあって、この傾向に拍車がかかっているように感じます。

結局のところ、オリジナルの効果音を作るより既存の音源を使う方が簡単ですからね。それで量産型アニメを中心に画一的な効果音使用が広がっていったんだと推測します。



現代の優れた効果音演出の例

しかし、こんな酷い状況の中でも素晴らしい効果音の制作は続けられています。

最近の作品では、例えば『BLEACH 千年血戦篇』の武藤晶子氏による音響効果は作品全体の上質な仕上がりに完璧に調和しています。

特に山本元柳斎vsユーハバッハの戦いでは剣戟の鋭さや強さそして炎の重厚感までもが見事に表現されていました。

BLEACH千年血戦篇6話山本元柳斎重國vsユーハバッハ

『葬送のフリーレン』の出雲範子氏はファンタジー世界に溶け込む繊細な音響表現を実現し魔法という非現実的な現象の音さえも違和感なく自然に表現することに成功しています。

葬送のフリーレン14話フリーレンとヒンメル

『ダンダダン』の八十正太氏もオカルトとSFが融合する独特の世界観に合わせた効果音を上手に作り出しているなと思いました。

これらの作品に共通するのは「非現実的な現象」を違和感なく表現できている点

デジタル音を使用しながらも作品の世界観を壊さず、むしろ補強する形で効果音が機能しているのです。

さいごに

効果音は作品の質を左右する重要な要素です。

現実にない現象の音を作るのは確かに難しい仕事ですが、それを作品の世界観に合わせて違和感なく表現できるかどうかが音響効果技師の真価なのだと思います。

今回改めて感じたのは「目立つ音」と「作品に合う音」の違いです。優れた音響効果技師たちが追求しているのは間違いなく後者。効果音はあくまで作品を支える存在であるべきなんですよね。

僕たち視聴者にもできることがあります。

作品に合っていないなと感じる効果音に対しては、誹謗中傷ではなく建設的な批評として意見を発信していくべきでしょう。優れた効果音演出がなされている作品に対しては、その素晴らしさをしっかりと評価し伝えていくことも大切ですね。

以上、昨今のアニメ効果音について思ったことでした。

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