©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
前回のつづき…

「僕はユージオ。よろしく」
親切な少年は右手を差し出しながら自己紹介しました。
“ユージオ”という言葉は何語とも取れない響きでしたが、キリトは少年の名前を聞いて不思議な気持ちになりました…。
「俺の事はキリトでいいよ」
「そう…じゃあ僕もユージオって呼んで」
ユージオの過去
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握手をした後、ユージオは巨樹の根本に座り込み、布包みから取り出した丸パンの片方をキリトに差し出しました。
「長持ちするしか取り得のないパンなんだけど…まあ一応ね」
ユージオは丸パンを早速口にしようとしたキリトを制し、二本の指でパンの上に軌跡を描きます。
そして、パンを軽く指で叩くと…アルファベットと数字が表示された謎のウィンドウが出現。
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この動作やウィンドウは第一話でも出てきましたね。

――確定だ。ここは現実でも、本当の異世界でもなく、仮想世界だ。
キリトはここまでの流れで99%まで確信していましたが、このウィンドウ(ステータス・ウィンドウ)が出た事でこの世界が仮想世界である事が確定しました。
ユージオの話で、このウィンドウが”ステイシアの窓”と呼ばれている事、そして”Durability”がその対象に設定されている耐久値だという事が分かりました。
「おいしくないでしょ、これ。出がけに村のパン屋で買ってくるんだけど、朝早いから前の日の残りしかないし、昼に村まで戻る時間もなくてね」
肝心のパンはキリトが思わず目を白黒させるほどの硬さ。
100%全粒粉パンみたいな感じなのでしょうね。
全粒粉は普通の強力粉と違って、発酵を阻害する成分が入っていたり、グルテンを形成しにくいので硬くて弾力性のないパンになります。
味自体は野趣あふれる感じで、栄養素も豊富なので僕は好きなのですが、ふんわりもちもちしたパンになれた人には合わないかもしれませんね。
僕もさすがに100%全粒粉パンは作りません。いつもシロカのホームベーカリーで作っているのですが、強力粉6:全粒粉4くらいです。
それでは話を戻します。
昔はユージオに毎日お弁当を持ってきてくれていた人がいたみたいです。
同い年の女の子で小さい時はいつも一緒に遊んでいた…けれども二人で北の洞窟に出かけた時に間違えて”ダークテリトリー”に入ってしまい”禁忌目録”違反の罪で央都に連れて行かれたようです。
「でもね、キリト。僕は信じてるよ。きっと生きてるって。アリスは央都のどこかで必ず生きてる…」
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“アリス”という言葉を聞いた時、キリトの頭に焦燥感、寂寥感、そして懐かしさといった不思議な感覚が走ります。
ただ、キリトには全く心当たりがない事と、ダイシー・カフェでのアスナとの会話の中に”不思議の国のアリス”が出たのでそれが影響しているからだと自分に言い聞かせました。
それよりも気になったのはユージオが幼い頃の時間を全て記憶している事。
“ラース”のエンジニアからは“フラクトライト・アクセラレーション(FLA)”の思考加速は最大で三倍程度と聞かされていたので、ユージオがこの世界で十七年という年月を過ごしている事はありえないはず。
なぜなら最大の三倍で計算しても、現実世界では六年もの年月が経過しているという事になるから。(STLの実験機がロールアウトしたのが約3か月前なので、三倍計算なら仮想世界で九か月程度)
疑問はいくつも出てきますが、この仮想世界では答えを知る方法はありません。
気持ちを切り替えたキリトは誰しもが疑問に思う事をユージオにぶつけました。
「なあ、気になるんだったら、探しに行ってみたらどうなんだ?その央都に」
ユージオはここルーリッド村から央都まで早馬を使っても一週間かかる事、そして”天職”を放り出して旅に出るのが不可能だという事をキリトに教えました。
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ここでまた少し脱線しますが、この時ユージオから受け取った水筒の中身は”シラル水”という飲み物。
第一話にも出てきたこの飲み物の味についてどこにも描写がなかったと僕は思い込んでいたのですが、小説にありました。
言葉を切ると同時に、革の水筒をひょいっと放ってくる。受け取り、礼を言ってからコルクっぽい何かでできている栓を抜く。口をつけると、冷えてはいないがレモンとハーブを混ぜたようなさわやかな芳香のある液体が流れ込んできた。
小説「ソードアート・オンライン9 アリシゼーション ビギニング」
僕たちの世界で一般的に”フレーバーウォーター”とか”ニアウォーター”と呼ばれる飲料と同じような味なのでしょう。商品名を挙げると”桃の天然水”や”朝摘みオレンジ&南アルプスの天然水”等ですね。(シラル水には砂糖は入っていませんが)
木を切った事がない木こり
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昼食を終えたユージオは仕事を終わらせるので少し待っていて欲しいとキリトに言いました。
そして、灰白色の斧を持つと巨樹の幹に刃を力強く叩きつけます。
四秒に一度のペースできっちり五十回、計二百秒間にわたって斧打ちを続けたユージオは斧を幹に立てかけ、どさりと座り込みます。
「ユージオの天職は木こりなのか?」
「うーん…まあそう言っていいかもしれないね。でも天職についてからの七年間で切り倒した木は一本もないけどね」
悪魔の樹ギガスシダー
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ユージオはこの巨樹が”ギガスシダー“という名前である事、そして村の人からは”悪魔の樹“と呼ばれている事をキリトに教えます。
“悪魔の樹”と呼ばれている理由は、この樹が周りの土地から、テラリアの恵み(栄養のようなもの)をみんな吸い取ってってしまい、農作物を育てようとしても良い実が育たないからのようです。
北、東、西の三方を急峻に囲まれたルーリッド村では畑や放牧地を広げようとするならギガスシダーが陣取る南の森を切り拓くしかありません。
切り倒そうにもこの巨樹の木質は鉄の硬さを誇り、火をかけても煙すら出ず、掘り起こそうにも根は梢と同じだけの深さにまで及んでいます。まさに絶対防御ですね。
困り果てた村人は鉄さえ断てると言われる、古代竜の骨から削り出した”竜骨の斧“を使って僅かずつでも樹の幹を刻む事にしました。
専任の”刻み手”を置いて叩かせる事三百年、”ギガスシダーの刻み手“という”天職“を与えられたユージオは七代目となるようです。
ちなみにギガスシダーはラテン語と英語の合成で”Gigas Cedar”巨人の杉という意味です。
キリトも斧打ちに挑戦
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「なあ、ユージオ…ちょっと俺にもやらせてくれない?」
「ええ?」
「ほら、弁当を半分貰っちゃったからさ。仕事も半分手伝うのが筋だろう?」
パンの事は口実で、本当はむずむずと背中を這う衝動が抑えきれなかったようですね。
ユージオが不安そうに差し出す斧の柄を握ると、ありったけの力を込めて巨樹の幹に刻まれた切り目の中心めがけて叩きつけました。
しかし、斧刃が命中したのは、刻み目の中心から五センチも離れた場所。
両手を猛烈なキックバックが遅い、キリトはたまらず斧を取り落とし呻いてしまいます。
「肩にも腰にも力が入りすぎだよ。もっと全身の力を抜いて…」
両手で斧を振るモーションを繰り返すユージオを横目に、キリトはある過ちに気づきます。
「そうだ…ここは仮想世界。生身の体じゃなく、アバターだと思って…」
「ソードスキル…スマッシュ」
今度は切り目そのものから遠く離れた樹皮を叩いてしまい、醜い音を立てて斧が跳ね上がりました。
ただ、二回目は悪くなかったようで、ユージオは笑わず真顔でアドバイスし、再チャレンジを促します。
切り込みの真ん中に命中したのは何十回と斧打ちを繰り返した後でした…。
アニメでは両手斧スキルである”スマッシュ”をイメージしているようですが、小説では水平斬撃系ソードスキルである”ホリゾンタル”のモーションを思い描いているという描写があります。
SAOとALOの二世界を通して、キリトが斧をメインアームにした事は一度もないので、両手斧スキルをイメージさせるのはどうかと個人的に思いました…。
その後、二人は五百回ずつ斧打ちをし、ユージオの”天職”である”一日二千回ギガスシダーを叩く事“を完了して、二人は村に戻る事になりました。
ちなみにこの時、ギガスシダーの天命値が232316である事が分かります。
第一話のギガスシダーの天命値は235542だったので、六年間で3226減らせた事が分かりましたね…。
第一話では幼いキリトとユージオ、そしてアリスの三人でいつも一緒に行動していたはずなのに、ユージオの記憶からキリトの存在だけがすっぽり消えてしまっているのが不思議に感じたと思います。
次は舞台をルーリッド村へ移します。


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