仮想世界”アンダーワールド”に飛ばされたキリトは、ユージオのおかげでルーリッド村に入る事ができ、教会で温かい食べ物と寝床を提供してもらいました。

「うー、あと十分…いや五分だけ…」
肩口を遠慮がちに突つかれたキリトは毛布に潜り込みながら唸りました。
「だめよ、起きて」
尚も肩をつつかれている内に小さな違和感を感じ始めます。
“妹の直葉ならこんなまどろっこしい起こし方はしないはず”と薄く目を開けると、そこにいたのは修道服を身につけたセルカでした。
自分を起こしたのがセルカだと理解したキリトは、ここが現実でもALO内でもない事を思い出しました。
それでは第三話”果ての山脈”について気儘に書いていきたいと思います。
当面の行動方針
暖かいベッドと平和な眠りの名残を惜しみながら起き上ったキリトは周囲をぐるっと見回しました。
そこは昨夜と同じルーリッド教会二階の客間。
昨日の奇妙な体験は一夜限りの夢では終わらなかったようだと思ったキリトは子供向け長編アニメ映画に出てきたようなフレーズを呟きます。
「夢だけど、夢じゃなかった、か」
貸し与えられた寝間着を脱ぎ、椅子の背にかけておいた青いチュニックを手に取ったキリトは、服から汗の匂いがしない事に気づきます。
どうやらこの世界では匂いの元になる雑菌類までは再現していないのだろうとキリトは考えました。
第一話の感想で食べ物の腐敗について少し書きましたが、この世界には雑菌というか細菌やウイルス等の類が存在しないのでしょうね。

ちなみに衣服の半乾きの悪臭の原因は”モラクセラ属細菌”が衣服の中の蛋白質等を分解した時に作る”4-メチル-3-ヘキセン酸”という脂肪酸の一種です。
この世界では細菌だけではなく、こういった悪臭成分も存在しないのでしょうか。
僕は臭いにとても敏感なのでこんな世界があれば永住したいものです(笑)
さて、話を元に戻します。
“初期装備”に着替えたキリトは、井戸の水を汲み顔を洗いながら当面の行動方針を二つ定めます。
- この村にログアウト方法を知っているはずの”ラース”のスタッフがいるかを調べる
- この世界が存在する理由を知る為に央都に行く方法を探る
その後、厳やかな礼拝と賑やかな朝食を終えたキリトは今日もユージオの”天職”を手伝う事に…。
神器と青薔薇の剣
教会を出たキリトは中央広場の真ん中でユージオを待ちました。
ユージオはすぐに現れましたが、直後に教会の鐘楼が響かせる素朴かつ美しい旋律が。
その時、キリトは一時間ごとに鳴る鐘の音が毎回違う旋律だという事に気づきます。
その事をユージオに話すと、村では”ソルスの光のもとに”という讃美歌を十二節に分けて鳴らし、さらに半刻ごとにカーンとひとつ鳴らしていると教えてくれました。
この世界には時計はないのかというキリトの独り言に首を傾げるユージオ。
キリトが時計の簡単な説明をすると、ユージオは子供の頃に読んだ絵本に、はるか昔央都の真ん中に”時刻みの神器”という時計のようなものがあったが、人々がその神器ばかりを見て仕事をおろそかにしたので神様が怒って壊してしまったという話があったと言いました。
確かに学校の授業や時間で管理される仕事の場合はどうしても時計を見てしまいますよね。早く時間が過ぎないかななんて思ったり。
時計さえなければ時間に縛られる事もないのにと僕もよく思う事があります。
教会の鐘はこの村にたった一つの”神器“で毎日決まった時刻に一秒もずれることなくひとりでに讃美歌を奏でるとの事で、他の村や街にも同じものがあるようです。
ユージオと青薔薇の剣
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
ユージオとキリトは交替しながら懸命に竜骨の斧をギガスシダーに打ちつけました。
そして午前の分を終え昼食の時間に。
もちろんお昼ご飯は昨日も食べた丸パン二個です。
「キリトにも、アリスのパイを食べさせてやりたかったなあ…。皮がさくさくして、具がいっぱい詰まってて…絞りたてのミルクと一緒に食べると、世の中にこれより美味しいものはない、って思えた…」
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
- 塩漬け肉と豆の煮込みのパイ詰め
- チーズと燻製肉を挟んだ薄切り黒パン
- 数種類の干し果物
- 朝絞ったミルク
第一話で少し紹介されていましたが、アリスが作っていた料理は本当に美味しそうでしたね。
その話を聞いたキリトはアリスの天職がパン屋だったのかとユージオに尋ねます。
「ちがうちがう、アリスは教会で神聖術の勉強をしてたんだ」
アリスは村一番の神聖術の才能を持っていたので、しきたりで十歳の春に全員なんらかの”天職”を与えられるルーリッドの村でも例外として教会の学校に通っていました。
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
ユージオの話で教会にいるセルカはアリスの妹だという事、アリスがいなくなった後シスターになる為に教会で住み込みで神聖術を学んでいる事も分かりました。
その他にもユージオはたくさんの話をしてくれました。
三年前に流行り病で多くの人が死んだ事や作物不良、動物が人を襲っている、ゴブリンの集団が南の方に現れた等、近頃おかしな事が続いているようです。
流行り病や作物不良、動物等はどうしようもない部分がありますが、ゴブリンについては整合騎士がダークテリトリーとの国境を守っているはずなのにおかしいですね。
さて、二人で話をしているとあっという間に時間は過ぎ午後の仕事をする時間に。
「なあユージオ、村にはこれより強い斧はないのか?」
「あるわけないよ。これ以上っていったらそれこそ整合騎士が持ってるような…」
竜骨の斧は竜の骨を削り出して作ったものですが、竜の骨は武器の素材では最高のもので南方で作られるダマスク鋼や、東方の玉鋼よりも固いと小説には書いてあります。
「あっ斧の代わりにはならないけど…君に見てもらいたいものがあるんだ」
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
ユージオが息も絶え絶え運んできたのは細長い革製の袋でした。
「お、おい、大丈夫か」
キリトが心配そうに聞くと、ユージオは答える余裕もなさそうに短く頷きながら、革製の袋をどさっと地面に落とします。
「開けていいか?」
「あ…ああ。気をつけなよ。足の上に落っことしたらかすり傷じゃすまないぞ」
革包みはとても重く、まるで地面に釘止めでもされているように動きませんでした。
小説ではこの革包みの重さを妹の直葉と同じくらいと例えています(笑)ハードな剣道部の練習に加え筋トレの鬼なので外見から想像するより少々重めなのだそう。
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
革袋の中から現れたのは思わず溜息が出そうになるほど美しい一振りの長剣。
「おとぎ話じゃ青薔薇の剣て呼ばれてる」
ベルクーリのおとぎ話は第一話でも語られましたね。
ベルクーリと北の白い竜
英雄ベルクーリが村の東を流れるルール川で氷の塊を見つけ、それを不思議に思ったベルクーリは川の上流へと歩き続けて人界の終わりである”果ての山脈”に辿り着き、その先にある巨大な洞窟へ。数々の危険を乗り越え洞窟の奥で、ベルクーリは大小無数の財宝の上で眠る巨大な白竜を見つけます。財宝の中の一本の美しい剣に目を奪われたベルクーリは眠り続ける竜を起こさないよう、そっと剣を手に取り一目散に逃げ出そうとしたその途端――
ユージオが子供の頃は重すぎて剣を持ち上げることもできませんでしたが、どうしても気になって一昨年の夏に洞窟まで取りに行ったようです。
少しずつ運んだけれど三か月もかかったとの事。
ちなみに毎日運んだのではなく、月に数回ある安息日に数キロずつ運んでは森に隠すを繰り返したようです。
このエピソードだけでユージオは真面目で几帳面な努力家だという事がよく分かりますね。
長くなってしまったのでここで一度区切ります。
次はキリトが青薔薇の剣を振るう場面からですね。


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