前回のつづき…

アニメ第六話、原作では「ソードアート・オンライン10 アリシゼーション・ランニング」百四十ページまではこの物語にとって非常に重要な部分の説明が詰め込まれています。
僕にとってのSAOの魅力はキリトの無双でもヒロインたちとの絡みでもなく、作品の設定やキャラクターの心情なので、このあたりの話はとても面白く感じるのですが、かなしいかなアニメではほとんどカットされていました…。
このパート四でも引き続き、第六話のカットされた部分を中心に気儘に書いていきたいと思います。
人工知能たちの権利
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
ラースの目的が”目的のためなら人を殺すことも可能な真の人工知能の開発”だったということを知ったアスナは冷たく透き通った声で言いました。
「――でも、あなたたちはその話をキリト君には一切していない」
「……なぜ、そう思うんだい?」
「もし話してれば、彼があなたたちに協力するはずがないわ。あなたたちの話には、大切な視点が一つ欠け落ちてる」
「……それは?」
「人工知能たちの権利」
©川原 礫/アスキー・メディアワークス/SAO Project
アスナの言い分はもしキリトが戦争の道具として人工知能たちに殺し合いをさせるなどということを知っていれば、絶対に協力などしないというものでした。
これについては第四話の記事でも少し書きましたが、キリトにとって自分のいる場所こそが現実だということ。

たとえNPCや人工知能が仮の命だとしてもキリトはそうは考えない、だからこそSAOをクリアすることができたんだとアスナは続けます。
「――言いたいことは僕にも解らなくもないよ。だが僕にとって十万の人工知能の命は一人の自衛官の命より軽い」
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
この二人のやりとりには考えさせられるものがありますが、僕は菊岡の考えに賛同します。
もし僕たちが生きる現実世界で真のボトムアップ型人工知能が創造された時にも必ず問題になるでしょう。
有識者が何年、何十年と議論を交わしても容易に結論が出ない命題だと思います。
キリトを必要としていた理由
「そもそも、なんで桐ケ谷君が必要だったの?最大級の機密が漏れる危険を冒してまで、どうして彼を……?」
凛子は重々しい沈黙を破り菊岡に尋ねました。
なぜ、アンダーワールドの住民たちは禁忌目録に背けないのか…
菊岡たちは二つの仮説を立てます。
- ライトキューブに保存されたフラクトライトの持つ構造的な問題
- フラクトライトの育成過程に原因がある
1の問題であれば、保存メディア(ライトキューブ)の設計からやり直す必要があるが、2の問題であれば修正の可能性があると思った菊岡らは一つの実験を試みました。
その実験とは本物の人間の記憶を全てブロックし、幼い子供に戻してアンダーワールドの中で成長させること。
もし、被験者の行動パターンが人工フラクトライトと同一のものになれば原因は後者の育成過程での問題になります。
©川原 礫/アスキー・メディアワークス/SAO Project
「実験のためには、仮想世界内での動作に慣れている被験者が必要だ。それも一週間、一か月ではなく年単位の経験がね。これでもう解ったろう」
アニメでは最初から被験者に適した人材=キリトという風に菊岡は説明していますが、原作ではかなりの試行錯誤を重ねた結果、その結論に達したと書かれています。
具体的にはラーススタッフから八人の被験者を募り、アンダーワールド内で様々な環境のもと成長実験を行っています。
結果は被験者の内一人たりとも禁忌目録を破るものはいませんでした。
さらに不思議だったのは被験者たちが人工フラクトライトの子供たちよりも非活動的で、外に出ることを嫌い、周囲と馴染めない傾向を示したこと。
ラースは被験者たちがそのような傾向を示した理由を”違和感”のせいと推測します。
このケースでの”違和感”とは現実世界と仮想世界での動作感覚の違いです。
「重力感覚のせいよ。視覚や聴覚の信号と違って、重力や平衡を感じる部分の研究は遅れてるの。信号の大部分が、視覚からわたしたちの脳が補完する重力感覚に頼ってるから、慣れてない人はうまく動けない」

ヒトの内耳
菊岡が違和感の話をした時、アスナはすぐに違和感の原因が重力感覚にあると言います。
アスナの言う重力や平衡を感じる部分というのは耳の最も内側にある”内耳”。
内耳はヒトの身体の中で最も小さい臓器である上にリンパ液に満たされた状態で骨の内部に存在するため研究が遅れています。
内耳は細胞診もできず、画像検査でも限られた情報しか得ることができないので内耳に原因がある疾患(老人性難聴や突発性難聴、メニエール病等)の治療が難しいとされていますね。
内耳については高校生物で習う内容ですのでちょうど授業の最中だったのかもしれません。
少し脱線してしまいましたが、つまりは脳で重力感覚を上手く補完できる=”慣れている人間”が必要であり、菊岡が知る人物の中で最も仮想世界に順応しているのがキリトだったというわけです。
次回につづく。


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