前回のつづき…

出来合いの魂のコピーでは《高適応性人工知能》足りえないことを理解したラースは新生児の魂をコピーして仮想世界(VRMMOワールド)で成長させることを考えたというところまで前回説明しました。
今回は精神原型の育成の過程から気儘に書いていきたいと思います。
ラースの作った仮想世界《アンダーワールド》
「僕らはザ・シードを使って、小さな村と周囲の地形を作ってSTL用に変換したっス」
ラースの作った仮想世界についてアニメでは比嘉が上記のように説明しています。
もう少し詳しく説明すると、この仮想世界は二重構造になっていて、下位サーバーでは汎用データ形式のVRワールドが動き、上位のSTLメインフレームでは専用形式のVRワールドが動いています。
そしてその二つのVRワールドが相互にリアルタイム変換されている形になっているのです。
最初の箱庭
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
まず最初に行ったのは四人のラーススタッフが十六の精神原型を十八歳程度まで成長させることでした。
ラーススタッフは十八年という歳月をSTL内で過ごすことになりましたが、STLにはFLA(フラクトライト・アクセラレーション)という主観的時間を加速させる機能がついています。
比嘉の話ではスタッフがSTL内にいた時間はざっと一週間ということでした。
十八年を一週間…という言葉を聞いて凛子は驚愕します。(時間加速倍率は約一千倍)
「に……人間の脳を普段の千倍も速く動かして、問題は出ないわけ?」
凛子は誰しもが当然に考える疑問を比嘉にぶつけます。
それに対する比嘉の答えは理論的には思考クロックをどれだけ加速しても脳組織が損傷することは有り得ないというものでした。
このあたりの説明に関してもある程度納得できるように書かれていますが、アニメでは全く触れられていませんし、解説すると長くなるのでやめておきます。
ただし一点だけ、思考クロックの加速倍率をいくらあげようが脳組織が損傷を負うことはないが、脳とは別に魂自体にも寿命があるかもしれないという話もこのシーンで描かれています。
これについては物語にとって重要なことなので後々必ず語られるでしょう。
それでは話を精神原型の育成に戻します。
ラーススタッフに育てられた十六の人工フラクトライトはすくすくと成長し、言語力(日本語)や基本的な計算、その他思考能力を獲得するに至り、仮想世界で立派に生活していくだけの水準に達しました。
人工フラクトライトたちは、個性を示しつつも両親の言うことをよく聞き基本的には皆とても従順で善良だったようです。
第二世代~現在まで
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
成長した第一世代の人工フラクトライトたちは十分な知識を得て成熟したと判断したラースは彼らを八組の夫婦にし、それぞれに家と農地を持たせて独立させることにしました。
この時点では親を務めていたスタッフはお役御免。
しばらくしてから四人とも流行り病で相次いで死亡したことにしてSTLから出ることになりました。
その後、人工フラクトライトたちに新たな精神原型(赤ちゃん)を与えて育てさせ内部世界の時間流を一気に現実の五千倍まで引き上げ観察することにしました。
村の住民を演じさせていたNPCも途中から取り除き、ついには人工フラクトライトたちだけで村を作ることができるように。
その後も世代交代が進み、現実世界での三週間、内部世界での三百年が経過した頃には人口八万人という一大社会が形成されるに至りました。
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
現在内部世界では四百八十年が経過していて、首都セントリアの人口は二万に達しているとのことです。
この世界ではフラクトライトたちが《公理教会》と呼ぶ行政機関も存在し、《司祭》という階級によって統治が行われています。
この世界の名前は《アンダーワールド》。
この名前はフラクトライトたちが自発的に名付けたわけではなく、ラースが計画当初から使用していたコードネームがそのまま内部に残ってしまったようです。
菊岡の真の目的
規則を破れない人工フラクトライト
公理教会の支配力は相当なもので、この広大な世界を争いごとひとつ起こさずに治めている…このシミュレーションの結果から比嘉は基礎実験が成功したと思ったようです。
しかし、比嘉らは重大な問題に気がつきました。
このあたりの説明は省きますが、ラースが問題視したのはフラクトライトたちが生来的な性質として法や規則を破ることができないということでした。
ラースはフラクトライトたちの遵法精神を試すべく、ある種の《過負荷試験》も行っています。
その実験とは外界から孤立した山村を一つ選び、食料を七割減らすというもの。
総体として村が生き延びる方法は一部の住民を切り捨て、食料の分配を偏らせることでしたが、フラクトライトたちは禁忌目録の殺人禁止条項に背けず村人全員で食糧を分配し続けることを選びました。
結果は当然ながら全員餓死。
この試験によって、ラースはフラクトライトたちは何があろうと法や規則に背くことのできない存在だと理解したようです。
人を殺せる人工知能
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
確かに人間とは違うかもしれないが規則や法を完璧に守ることのどこが問題なのかと菊岡に問う凛子ですが、沈黙を破り口を開いたのはアスナでした。
「もしかして…あなたたちの目的は人を殺せるAIを作ること?」
アスナとキリトは前々から菊岡がVRMMOに興味を持つ理由はその技術が警察や自衛隊の訓練に転用できるからだと推測していたようです。
けれども、今回の計画は訓練プログラム等の開発のためだとすれば規模が大きすぎる、これほどのことを自衛官である菊岡が行う理由は戦争で敵の兵士を殺すAIを作ることに他ならないと言いました。
「――五年前、ナーヴギアが発表された時、僕は気付いたんだ。この技術には戦争という概念を根底から一変させてしまうほどの可能性があるとね。SAO事件が起きた時、僕は志願して総務省に出向し、対策チームに加わった。それも全てこのプロジェクトを立ち上げるためだ。五年かかってようやくここまで来たよ」
菊岡はそう言って、アスナのいう事を暗に認めました。
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
凛子は比嘉にも志願理由を問いましたが、比嘉の動機は学生の頃友人だった韓国人が兵役中に亡くなったことで、戦争は無くならないまでも人間が死なずに済めばと考えるようになったからというものでした。
菊岡や比嘉の動機について、アニメでは約一分程度で語られていますが、原作では非常に詳しく説明されています。
人を殺せるAIを搭載しようとしているのは無人航空機(UAV)。
無人航空機は現在も遠隔操作によって稼働していますが、システム上どうしても電子妨害(ECM)に弱くなります。
もし、無人航空機に完全なボトムアップ型人工知能を搭載することができれば、ジャミングを無効にでき、自ら考えて攻撃する最強最悪の無人殺戮兵器が完成することになりますね…。
菊岡は第二次世界大戦、ベトナム戦争、イラク戦争での戦死者の数や政府への支持率を例に挙げ、もはや現代は人間が戦う戦争ができる時代ではないと言います。
しかし、アメリカは防衛予算という巨大なパイの分配を止めることができないので結果として今後の戦争は人間対人間から無人兵器対人間、そして無人兵器対無人兵器へとシフトしていくだろうと予測しています。
はっきりとは書かれていませんが、今後戦争の主力になる無人兵器で他の国々に先んじて最先端の独自技術を開発することこそが菊岡の真の目的ではないかと思われます。
その後も、なぜ国を挙げて兵器の開発をするのか等の説明がありますが、このあたりは保守派なら誰しもが考えることであり、特段珍しいものではありません。
また長くなってしまったのでここで切ります。


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