全世界でシリーズ累計2600万部を売り上げた人気作品『ソードアート・オンライン(SAO)』シリーズ。
僕が初めてWeb版を読んだのは10年以上前になりますが、Web版から書籍版まで今でも追いかけ続けている大好きな作品の一つです。
アニメ版のSAOについては、伊藤智彦監督が担当していた頃の作品が特に好みで、今でも定期的にアインクラッド編やマザーズ・ロザリオ編などを見返しています。
一方、小野学監督が担当したアリシゼーション編については、正直非常に残念な出来だったと感じています…。原作は全編通してもトップ3に入るくらい好きなんですけどね。
もちろん人によってはとても面白かったと感じる人もいるでしょう。ただ、僕にはアニオリやストーリーの進め方・取捨選択、アクションの見せ方など、多くの点で不満が残るものでした。感想記事も残念ながら途中で断念。
アリシゼーション編を見終わった時には、もうアニメSAOは駄目かもしれんね…と思いましたが、最新アニメ映画『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』の公開が発表された時は心が躍りました。
結局のところ、僕はSAOシリーズが好きなのだと再認識しました(笑)
SAOPはアインクラッドを第一層から攻略していくシリーズ
『ソードアート・オンライン プログレッシブ(SAOP)』は、SAOシリーズの原点とも言える作品。
作者である川原礫(かわはら れき)大先生の中で燻っていた「キリトたちがどのようにして浮遊城アインクラッドの各フロアを踏破し、ボスを倒していったのかを書きたい」という欲求を形にしたものです。
SAO本編の原作小説は電撃小説大賞に応募するために執筆された作品でした。
応募要項の原稿用紙120枚制限(?)に合わせるため、話を短くまとめる必要があり、序盤とサブエピソード、そして最後の3週間のお話しか描かれていません(第1部でゲームクリア)。
「プログレッシブ」という言葉には、進歩的、漸進的な、連続的な、累進的な、などの意味がありますが、川原先生によると、「段階的に進む」という意味もあるそうです。
つまり、『ソードアート・オンライン プログレッシブ(SAOP)』は浮遊城アインクラッドを第一層から順に攻略していく物語なのです。
アニメではちょこっとしか出番がなかった情報屋・鼠のアルゴ(かわいい)が、メインキャラの一人として活躍するのも『ソードアート・オンライン プログレッシブ(SAOP)』ならではの魅力です。
また、「安く仕入れて安く提供する」のがモットーのエギルさんが商人魂に目覚める前の話なども、第一層から丁寧に描かれています。
これらはプログレッシブだからこそ可能な、キャラクターの成長や変化を細かく追える面白さだと言えるでしょう。
SAO本編とSAOPの矛盾
SAO本編やアニメでは、キリトとアスナが第1回ボス攻略会議で初めて出会うのに対し、SAOPではその攻略会議の前にダンジョンで出会うなど、SAO本編とSAOPの間には数多くの「矛盾」が存在しています。
しかし、これまでの作品のストーリーや会話の全てを拾って整合性を持たせるのは非常に困難な作業だと言えるでしょう。SAOPに関しては、完全に新しい作品とまでは言えないものの、パラレルワールド的な視点で読むことでより楽しめるのではないでしょうか。
というよりも、そのような読み方をしないと消化しきれない部分が多すぎるのが現状です…。
SAOPはSAO本編とは異なる視点や解釈を提供してくれる作品であり、それ自体を一つの独立した物語として捉えることが大切だと思います。
もちろん、既刊との矛盾は容認できないという方も少なからずいらっしゃることと思います。私も、今後の物語で設定をすり合わせるべく最大限の努力をしてまいりますので、ひとまずはこの新シリーズの行く末を見守って頂ければ幸いです。
ソードアート・オンライン プログレッシブ001より引用
川原先生の言葉はいつも読者に対する心配りや作品に対する柔軟性に溢れていますね(感嘆)
多くの作家は、自分の作品が他者によって改変されたりするのを嫌がる傾向にありますが、川原先生は「SAOAガンゲイル・オンライン(時雨沢恵一)」「SAOAクローバーズ・リグレット(渡瀬草一郎)」などのスピンオフ作品やオリジナルストーリー全開のゲーム作品を認めたりとかなり柔軟なイメージです。
小説版SAOPは読みやすくて面白い
実は『劇場版 SAOP 星なき夜のアリア』の予習気分で、もう一度『ソードアート・オンライン プログレッシブ(SAOP)』を一巻から読み返しているのですが、やはり面白いと改めて感じています。
SAOPはシステム面の設定などは相変わらず難解な部分もありますが、文章自体は本当に読みやすく、スラスラと読み進められます。
そして何より「戦闘描写」が素晴らしい!
文章を読むだけで、その光景がありありと脳裏に浮かんでくるんですよね。
右手の剣を同じく左腰に据え、体を転倒寸前まで前に倒す。この角度が足りないとシステムがモーションを認識してくれない。地を這うような低さから、右足を全力で踏み切る。全身が薄青い光に包まれ、俺はボスとの距離十メートルを瞬時に駆け抜ける。片手剣基本突進技、《レイジスパイク》。
ソードアート・オンライン プログレッシブ001より引用
文章を読めば、第一層のボス「イルファング・ザ・コボルドロード」の《辻風》を《レイジスパイク》で相殺するキリトの姿がはっきりとイメージできます。
思わず自分でもやってみたくなったりしますよね(笑)
小説版SAOやSAOPは、キリトの「俺TUEEE」的なところやハーレム展開だけがSAOの魅力だと思っている人には、退屈に感じるかもしれません。
しかし、戦闘描写や空想技術・システム的な部分、そしてキャラクターの細かい心理描写こそがSAOの真骨頂だと思う人ならきっとハマるはずです。
特にアリシゼーション編はその最たる例だったと言えるでしょう。技術的な設定やキャラクターの心理描写が非常に緻密で深みのある物語でした。
アニメ版ではそうした部分が十分に表現されていなかったのが残念でなりません。
個人的にはアリシゼーション編を原作の魅力を十分に生かした形で、もう一度最初からアニメ化してくれないかなと願っています。
小説版SAOPは年1ペースで現在8巻まで発売
SAOPの刊行ペースについては、第一層と二層を描いた『ソードアート・オンライン プログレッシブ001』が発売されたのが2012年で、現在は8巻まで発売されています(第七層攻略)。※2021年10月現在
川原先生はSAO本編をはじめ他の作品も並行して執筆されているため、SAOPの刊行ペースは大体年1冊と遅めになっています。このペースで浮遊城アインクラッドの全75層を描くのであれば、川原先生も僕も間違いなく生きてはいないでしょうね(苦笑)
でも、SAOPの世界観とストーリーは本当に魅力的で次の展開が気になって仕方ありません。川原先生にはできるだけペースを上げて物語を進めていただきたいと心から願っています
劇場版SAOPは第一層攻略部分をアスナ視点で描いた物語
今回の映画『劇場版 ソードアート・オンライン プログレッシブ 星なき夜のアリア』は、原作小説の169ページまでを映画化した作品。
この映画の特徴は、第一層攻略部分を”アスナ視点“で描いている点にあります。
「星なき夜のアリア」の意味
映画のタイトルにある『星なき夜のアリア』という副題には、いくつかの意味が込められているように感じます。
まず、”星なき夜”というのは、夜空に星が見えないアインクラッドの世界を指していると考えられます。
アニメ映画『ソードアート・オンライン オーディナル・スケール』の冒頭でも、アスナが「アインクラッドは星が見えなくて残念だね」と言っていたことからも、その解釈は妥当でしょう。
次に、”アリア”という言葉は「旋律的な独唱曲」を意味します。
原作SAOPでは、第一層攻略時にキリトが「ビーター(ベータテスターとチーターを合わせた言葉)」という蔑称で呼ばれるようになり、ソロプレイヤーとして生きていくことを決意するエピソードがあります。
この副題は、そうしたキリトの孤独な決意や心情を表現しているのかもしれません。
ただし、今回の映画はアスナ視点で描かれるとのことなので、キリトだけでなく、ギルドに入るまではソロプレイヤーとして行動していたアスナのことも指しているかもしれません。
ちなみに、SAOPの副題は「星なき夜のアリア」から始まり、「儚き剣のロンド」、そして「黒白のコンチェルト」と続いていきます。
アスナ視点で描かれる「漫画版 ソードアート・オンライン プログレッシブ」
SAOPシリーズは小説版だけでなく漫画版でも展開されています。
原作者の川原先生は、ストーリーが完全に一致しているわけではない『漫画版 ソードアート・オンライン プログレッシブ(作画:比村奇石)』に対しても最大限の賛辞を送っています。
単行本1巻発売おめでとうございます!
大迫力のアクションシーンや、各キャラクターへの深い掘り下げ、爽快な台詞回しなど、《マンガの凄さ》がたっぷりと味わえるコミカライズをして頂いて、本当に原作者冥利に尽きます。もしアインクラッドの中で連載されていたらアスナさんも「来月のお話を読むまでは死ねない!」ってなったと思います(笑)。
最後に一言! この比村さん版『SAOプログレッシブ』もアニメ化しましょうアニプレックスさん!
漫画版 ソードアート・オンライン プログレッシブ001より引用
熱量高っ(笑)
この漫画版SAOPはアスナ視点で物語が進んでいくので、今回の新作映画に近い形なのかもしれません。
僕自身は原作厨寄りの人間なので、原作の内容を大きく改変するようなメディアミックスには懐疑的な部分があります(アニメ版アリシゼーションのような)。
しかし、漫画版SAOPはSAOの世界に入る前のアスナの生活や心情を深く掘り下げた内容になっており個人的には高評価です。
漫画版のキリトは、原作と比べると”陽”の性質がより強く表れていて、イキり具合にも勢いを感じますね(笑)。
カッコいいシーンではとことんカッコよく描かれる一方で、ちょっと気持ち悪かったりおバカだったりするところもたくさんあります。
まさに、原作よりも人間らしさが強調されたキリトだと言えるでしょう。
漫画版SAOPは基本的にアスナ視点で物語が進むので、凄腕のキリトにアスナがぶるっとしたり、アスナの内面の心理描写が丁寧に描かれていたりと、原作とは異なる魅力がたくさんあります。
原作では描かれていなかったアスナの心情や、キリトに対する印象などが細かく表現されているので、「この時のアスナはこう思っていたのか」と新たな発見や解釈ができる場面が多くあります
これによって、既読者であってもストーリーをもう一度新鮮な気持ちで楽しむことができるのが、漫画版SAOPの大きな魅力だと思います。
「あんたもあぶれたのか?」
「あぶれてない。周りがみんなお仲間同士みたいだったから遠慮しただけ」
攻略会議でのグループ分けの際、原作やアニメではクールで冷静なアスナの姿が印象的でしたが、漫画版ではアスナもキリトと同じようにグループ分けが苦手だったという設定が追加されていましたね。
この一風変わった設定も漫画版SAOPの面白さの一つだと思います(笑)
漫画版SAOPはアスナのかわいさやカッコよさ、そしてキリトとの絡みをほんわかと見られるところが素晴らしいんです(熱弁)
アルゴに対して、つい本名を名乗ってしまうようなおバカでお茶目な一面がある一方で…
アニメでは「初心者と思っていたが凄まじい手練れだ。速すぎて剣先が見えない」、小説版では「俺は、あれほど恐ろしく、また美しいソードスキルをいままで見たことがない」と描写されるように、キリトをも戦慄させるほどの剣の冴えを見せるカッコいいアスナの姿も印象的です。
それ以外でも、コボルド王相手にキリトとアスナが共闘している場面でボスのソードスキルを全てキャンセルしていることの凄さを伝えたり、漫画版は細かい点も納得の内容なんですよね。
キリトといえばスタバやジ・イクリプスなど攻撃のイメージが強いけれど、クラディール戦の《ソニックリープ》による武器破壊(アームブラスト)や七十五層の「スカル・リーパー」戦の防御、マザーズ・ロザリオ編の《デッドリー・シンズ》による魔法破壊(スペルブラスト)などなど、ハイレベルの守りこそが至高だと思います。
さすが比村先生はよく分かってらっしゃる!
比村版漫画SAOPは全7巻で終了 続編は他の漫画家さんが引き継ぎ
ただ、この比村版漫画SAOPは諸事情により7巻をもって終了し、他の漫画家さんに引き継ぐことになってしまいました…。残念過ぎて吐きそう。
比村奇石先生は『月曜日のたわわ』などで一気に人気作家になってしまったので仕方ないのかもしれないけれど、魅力的な女の子を描ける数少ない作家さんなんで本当に悲しいです。
儚き剣のロンドを描いた3巻の「もしかして死にたいの…?殺されたいヒトなの…?」のシーンも想像通りで良かった。
比村版SAOPの後は、続編として三吉汐美先生が作画を担当していた『SAOP 泡影のバルカローレ』が2巻、ぷよちゃ先生が作画を担当している『SAOP 冥き夕闇のスケルツォ』が2巻発売されています。
さいごに
『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』は2021年10月30日に公開予定。
原作小説もしくは漫画をベースにアスナ視点で物語を進めていくということは分かっていますが、 アスナと同じ「私立エテルナ女子学院」に通うミト(兎沢深澄)という新キャラが登場するなど、細かいところは結構変えてきそうな気がします。
個人的な感想としては、アスナとユウキの友情こそ至上だと思っているので、とんでもないところを弄ってくるなあ…と思いましたが、キリトにおけるサチのような存在をつくってみたかったのかもしれませんね。商業的な臭いがプンプンするけど。
今作の監督は伊藤さんでも小野さんでもなく河野亜矢子さんが担当。さまざまな作品の絵コンテや演出、制作進行などを担当されて監督としては今作が初作品になるのでしょうか。
「無職転生」の監督を務められている岡本学さんのように、監督としての実績はそれほどなくとも作品への愛を持ってセンス溢れる素晴らしい作品づくりをされている人はたくさんいるので河野監督にも期待したいところ。
公開日に見に行く予定ですが、もし面白かったらまた感想を書きたいと思います。
⇒『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』オフィシャルサイト
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