©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
前回の続き…
カーディナル・サブプロセスは、少女の支配権を確立した後、アドミニストレータを消滅させるために攻撃を仕掛けました。
しかし、《肉体への適応》という弱点を突かれ、命からがら大図書室に逃げ込むことになりました。
アドミニストレータとの戦いで実質的に敗北したカーディナルは、以後200年にわたり、ひたすら観察と思案のみを積み重ねることになったのです…。
第十三話「支配者と調停者」のあらすじと感想③
カーディナルの長き観察と思索
大図書室に逃げ込んだカーディナルは、時間の経過とともに小さな女の子の肉体にも適応していきました。
その結果、神聖術だけでなく、間接・直接戦闘においてもアドミニストレータとの能力差はほぼ解消されました。
さらに、カーディナルは大図書室の特性を活かした奇襲攻撃も可能だと判断。前回の惨めな敗走を挽回し、アドミニストレータに逆襲の一撃を見舞うための戦略を練り上げていきました。
しかし、アドミニストレータはカーディナルの企てを的確に察知し、速やかに対抗策を講じました。
その対策とは、カーディナルにも対抗し得るほどの権限と装備を持った忠実な護衛をつけること。
アドミニストレータは、紫色の三角柱のオブジェクト《敬神(パイエティ)モジュール》を開発しました。
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このモジュールを対象の額中央に埋め込むことで、自身と教会に絶対の忠誠を誓い、人界の現状維持のみを目的として行動する超戦士を生み出したのです。
最古の整合騎士 ベルクーリ・シンセシス・ワン
その超戦士こそが、世界のあらゆる乱れを正し、整合性を保ち、万物を教会の支配下に統合する者《整合騎士(インテグレータ)》。
そして、忠実な護衛第一号として選ばれたのは、”不世出の剣士” と呼ばれながら、教会の支配を嫌って仲間たちとともに辺境に流れ、自ら村を開拓した豪傑ベルクーリでした。
こうして、最古の整合騎士《ベルクーリ・シンセシス・ワン》が誕生しました。
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ベルクーリは物語の序盤によく出てきた昔話の中の人物で、数々の武勇譚を残した英雄でしたね。
カーディナルの協力者探し:シャーロットの活躍
その後、アドミニストレータはベルクーリ以外にも数名の整合騎士を生み出しました。これにより、カーディナルの奇襲が成功する確率は著しく低下しました。
このような状況下で、カーディナルが取れる唯一の策は “協力者を得ること” でした。
カーディナルが求める協力者には、二つの条件がありました。
一つは、禁忌目録を破れるほどの高い違反指数を持つこと。もう一つは、直接戦闘能力および神聖術行使権限が整合騎士に匹敵することです。
しかし、そのような条件を満たす人物は容易には見つかりませんでした…。
カーディナルは協力者を探すため、全世界に「監視ユニット」を放ちました。
その中の一つが、約2年間にわたってキリトの髪の中を定位置にしていた、最古の蜘蛛型監視ユニット《シャーロット》だったのです。
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アリシゼーション編において、僕がカーディナルに次いで二番目に好きなシャーロットがついに姿を現しました。
シャーロットは優しさと思いやりにあふれた魅力的なキャラクターです。
原作小説では、アニメでカットされたザッカリア剣術大会編の冒頭部分に、シャーロット視点での小話が収録されています。この場面は彼女の優しさが伝わってくる素敵なシーンなので、まだ読んでいない方にはぜひ一読をお勧めします。
カーディナルの推論:ラースの真の目的
カーディナルは200年以上もの間、シャーロットらを使って特異な事象の噂を追い、その発生源となる人物を観察し続けました。しかし、この試みは成功には至りませんでした。
時間の経過とともに、アドミニストレータは着々と守りを固めていきました。それに反比例するように、カーディナルは徐々に望みを失っていったのです。
カーディナルは、自らの魂の核に刻まれた《メインプロセスの過ちを正せ》という行動原理を恨みながら、徒労の日々を過ごしていました。生の輝きは失われ、言葉遣いまでもが変化していく中で、カーディナルはある思いを抱き続けていたのです。
それは、なぜこの世界を創造した外界の神々が、偽りの神アドミニストレータの専横を放置しているのか、というものでした。
何百年にも渡る観察と、カーディナル・システムに内蔵されたデータベースの分析から、カーディナルは一つの結論に達しました。
“真の神たるラースはこの世界の人間たちの幸福な営みを望んでいない”
この推論こそが、カーディナルが導き出した答えだったのです。
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カーディナルの推論はさらに進みました。
カーディナルの推論はさらに進みました。ラースは人間たちの幸福を望んでいないどころか、むしろ彼らを苦しめることを目的としているのではないか。
アンダーワールドの存在意義は、あたかも巨大な万力で人間たちをゆっくりと締め上げ、彼らがどのように抗うのかを観察するためだけなのではないか、と。
カーディナルの推測は的を射ていました。ラースはこの世界の住民の幸福など望んでいません。
ラースの真の目的は “人を殺せるAIを開発すること”。そのために、彼らはこれまで幾度となく《過負荷試験》を実施してきたのです。
人界における負荷実験の実態
カーディナルは、近年人界の辺境地帯で発生した一連の出来事に注目していました。流行り病の蔓延、危険な獣の跋扈、作物の不作などの現象は、すべて《負荷パラメータ》の増大によって引き起こされたものだと結論付けたのです。
そして、これらの負荷実験は最終段階に近づいており、やがて最終フェーズが訪れるだろうと。
カーディナルが言及する最終フェーズとは、人界の外側に広がる《ダークテリトリー》からの侵攻を指します。具体的には、闇の怪物たちが人間たちの領土に攻め込み、凄惨な暴虐を繰り広げるという事態です。
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アドミニストレータも当然、この脅威を認識していました。しかし、彼女は自身と整合騎士たちの力だけで闇の怪物たちを撃退できると過信していたのです。
闇の軍勢の脅威と人界の脆弱性
一方、カーディナルはそれを不可能だと言い切ります。その理由は、人界側の絶対数が少なすぎるというものでした。
本来、ラースの計画では人間界にも大きな変化が起こるはずでした。闇の怪物たちに対抗できる強力な軍隊が編成され、現在のような見かけ倒しではない実戦的な剣法や集団戦術が編み出されるはずだったのです。
しかし、現実は計画とは異なる方向に進みました。
圧倒的な力を持つ整合騎士たちが、絶え間なく侵入してくるゴブリンたちを一掃し続けたのです。その結果、本来なら戦闘経験を積み重ねるはずだった一般市民たちが、まったく戦いを経験しないまま数百年が経過してしまいました。
その結果、人間界は安寧という名の停滞に浸っていきました。剣士たちは実戦的な技術よりも型の見栄えばかりを追求するようになり、本来なら軍隊の指揮官となるべき貴族たちは贅沢と怠惰な生活にうつつを抜かすようになったのです。
このような状況では、強力な闇の怪物たちを相手に効果的な戦いを展開することは到底不可能でしょう。
カーディナルの苦悩と決断:理想と現実の乖離
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「わしは……わしは、世界の終末を仕組んだラースを、そんな神を断じて認めぬ!」
カーディナルは断言しました。たとえキリトたちが協力してアドミニストレータを倒したとしても、この世界が辿る運命は変えられないと。
大量の血に塗れた世界の終末――それこそがラースの真の意図。
この真実を知ったカーディナルは、長い時間をかけて熟考した末、ある決断に至りました。
それは、“アンダーワールドを、人界もダークテリトリーも、全てまとめて無に還すこと” でした。
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カーディナルの計画は、まずアドミニストレータを排除してカーディナル・システムとしての権限を回復することから始まります。
その後、ライトキューブ・クラスターに保存されている全てのフラクトライトを削除することを目指します。
この削除作業は、人界とダークテリトリーの区別なく行われる予定でした。つまり、この計画の最終目的は、アンダーワールド全体を完全に消去することだったのです。
カーディナルは人界だけでなく、“世界” 全体の調停者でした。
彼女は、ダークテリトリーの怪物たちが自ら望んで怪物になったわけではなく、元々は人間と同じフラクトライトに殺戮と強奪の行動原理を付加され、ラースにより意図的に作り出された存在であることも当然理解していました。
闇の軍勢が人界に攻め込むシナリオであれ、逆に人界側がダークテリトリーに侵攻するケースであれ、その結末は血で血を洗う惨状に他なりません。
世界の調停者たるカーディナルにとって、このような結果は耐え難い苦痛でした。
さらに、こうした状況を意図的に仕組んだラースの所業を、カーディナルは到底許容できませんでした。
もちろん、当初からこのような破滅的な結末を望んでいたわけではありません。
彼女の理想は、人界とダークテリトリーが無血で融和し、この世界がラースの支配から永遠に解放され、独自の歴史を紡いでいくことでした。
しかし、彼女はこの理想が実現不可能な夢物語に過ぎないことも、十二分に理解していたのです…。
次回につづく…
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