©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
前回の続き…
キリト、ユージオ、アリスの三人は、お弁当の天命の減りを緩やかにできる可能性がある “夏の氷” を求めて果ての山脈の洞窟を探す事になりました。
第一話「アンダーワールド」のあらすじと感想②
出発は7の月3回目の休息日。
月に数回ある休息日には”天職”を与えられて日々忙しく働く子供たちも、幼い頃に戻って夕食の時間まで遊びまわる事が許されています。
キリトやユージオも休息日には他の男子たちと一緒に魚釣りをしたり剣術の稽古の真似事をして楽しく過ごしているようです。
そんな休息日に三人は果ての山脈の洞窟へと向かいました。
ルーリッド村から果ての山脈の洞窟への道のりは小説ではたくさんの説明や会話があるのですが、アニメ版ではかなり簡略化されています。
ここでは僕なりに感じたことも踏まえながら、感想を書いていきたいと思います。
文武両道の天才アリスと小説版での描写
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まず、アニメでのアリスの描写について気になるシーンがありました。
キリトに手を引かれて可愛い表情を見せるアリスの姿は、アニメ全体を通してアリスが気は少し強いけれど可憐で女の子らしいイメージで表現されている印象を受けます。
一方、小説ではアリスの描写が少し異なっています。
木の根や石が多く歩きづらい悪路でもアリスは軽やかな足取りでキリトとユージオの前を進んでいくと描かれています。
実はアリスは今は村長の娘という立場上、大っぴらに男子たちとは遊んでいませんが、数年前まではよく悪ガキ連中に混じって剣の練習ごっこをしていたのです。もちろん、キリトやユージオも一緒でした。
しかし、アリスの持つ細枝に二人は何度もぴしりとやられ、反撃しようにもアリスは軽やかな身のこなしで全く当たらなかったそうです。
ユージオ曰く、アリスがあのまま修行を続けていたら村で初めての女衛士にすらなれたかもしれないとのこと。
アリスは神聖術と剣術の両方で天賦の才を持つ、まさに “文武両道の天才” と言えるでしょう。
小説版で語られるユージオの夢
アニメでは描かれなかったユージオの内面についても触れていきましょう。
ユージオにはギガスシダーを切り倒すという天職を与えられるまで、漠然と考えていた途方もない夢がありました。それは村の男子なら誰もが憧れる “衛士” になることです。
この夢が途方もないと感じた理由について、この場面では深く掘り下げられていませんが、小説の冒頭で天職についての簡単な説明があります。そこでは天職は大抵「世襲制」だと述べられています。
農家の子は農家に、道具屋の子は道具屋に、衛士の子は衛士に、といった具合に、親の職業を子が引き継ぐのが一般的なのです。ちなみに現実世界でも僕が最も嫌悪する制度の一つがこの世襲制です(笑)
ユージオは衛士の家に生まれていないため、夢の実現は難しいと感じていたのかもしれません。しかし、現実はともかく夢を見ることは誰にも許されています。
衛士になればその先には街の衛兵への道が開けます。さらに進めば修剣学院への入学、帝国皇帝御前大会への参加など、さまざまな可能性が広がっているのです。
洞窟への道中、ユージオはぼんやりとそんなことを考えていました。
もう諦めてしまった夢、終わってしまったと思っていた夢…。
そんなユージオの思考を見抜いたキリトが一言こう言います。
「まだ終わった夢じゃないぜ」
このあたりの描写もアニメでは割愛されていますね。ユージオの内面に踏み込んだ小説ならではの魅力的な場面だと思います。
異常に近い果ての山脈の洞窟の謎
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ユージオは、キリトとアリスに同行して洞窟を探しに来ましたが、”果ての山脈” という名前が示す通り、その洞窟は世界の果てにあると考えられていました。そのため、ユージオは日が暮れるまでの半日程度歩いたくらいでは、とても辿り着けないだろうと思っていたのです。
ところが、驚くべきことに彼らがそれらしき洞窟に到着するまでに要した時間はわずか4時間程度でした。洞窟はルーリッド村の近くにある、ギガスシダーが見える位置に存在していたのです。
これには物凄い違和感を覚えずにはいられません。なんだか薄気味悪い感じがしますよね。ゾクゾクするというか、ムズムズするというか…。
アニメではこの状況が淡白に表現されていますが、小説では三人の会話も交えながら、この奇妙な状況に対する不安や戸惑いが巧みに描写されています。読者も一緒になって、その妙な感覚を味わうことができるのです。
とにかく、三人は目的の果ての山脈の洞窟に何とか辿り着くことができました。
しかし、その道のりで感じた違和感は彼らの心に小さな暗い影を落としているようです。先の展開に不安を抱きつつ、物語は次の段階へと進んでいくのでした。
洞窟探索とアリスの神聖術の才能
洞窟に到着した三人は中に入る前に腹ごしらえをします。これはアニメではカットされていたシーンです。
今回のお弁当の献立は、【魚と豆のパイ】【林檎とくるみのパイ】【干したすもも】だそうです。魚と豆のパイは少し疑問符がつきますが、林檎とくるみのパイは間違いなく美味しいでしょう!
天命の減りを気にしながら慌ただしく食事を済ませた三人は、いよいよ洞窟の中へと足を踏み入れます。
しかし、洞窟の中は真っ暗だということをユージオとキリトは忘れていました。暗闇の中で途方に暮れる二人を尻目にアリスは神聖語で不思議な術式を唱えます。
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「システムコール。ジェネレート・ルミナス・エレメント。アドヒア」
術式を奏でた後に左手で素早く複雑な印を切ると、アリスが持っていた草穂の先に青白い光が灯りました。
ここで使われた神聖語は完全に「英語」ではないかと思った人も多いのではないでしょうか。この理由については後の展開で明らかになります。
アリスが神聖術を使った時、キリトとユージオは思わず感嘆の声を上げました。アリスが神聖術を学んでいることは知っていましたが、実際に使うところを見たのは初めてだったからです。
実は神聖術は世界の秩序と静穏を守るためだけに存在しており、日頃みだりに使用してはいけないとされているのだそうです。
白竜の遺骸と青薔薇の剣
灯りを頼りに探索を続ける三人はついに洞窟の奥で氷を発見します。
好奇心に突き動かされたキリトが先頭に立ち、一面氷に覆われた空間をさらに奥へと進んでいきます。
普段ならキリトを諌めるユージオも、今回ばかりは奥にいるかもしれない白竜を見てみたいという好奇心が勝ったようで、キリトを止めることなく後に続きました。
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そこで三人が目にしたのは昔話に登場する白竜の変わり果てた姿でした。
キリトは遺骸に残された傷跡を見て、竜を殺したのは人間だと推測します。
英雄ベルクーリですら逃げ出すしかなかったという圧倒的な力を持つ白竜を殺せるほどの力を持つ人間とは一体何者なのか。そして、その目的は何なのか…。
三人はさまざまなことを考えますが、もちろん答えは見つかりません。
個人的にこういうシーンは大好きです。
FF7で串刺しにされたミドガルズオルムや龍狼伝の北牙山の大熊のように、圧倒的な力を持つ生物がさらに強大な力を持つ何者かによって倒されるシーン。
それは得体の知れない存在が放つ静かな恐怖を感じさせます。
そんな中、キリトは白竜の遺骸の下にある財宝の山から「一振りの長剣」を無理矢理引っ張り出します。
華奢な見た目からは想像もつかないほどの重量があり、ユージオと二人がかりでも到底持ち帰れないほどだとキリトは言います。
それこそが、昔話の中で英雄ベルクーリが盗み出そうとした”青薔薇の剣“だったのです。
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――青薔薇の剣。
この剣はギガスシダーと並んで今後キリトやユージオにとって重要な存在になっていくのですが、その詳細についてはここでは触れないでおきましょう…。
闇の国ダークテリトリーと禁忌条項抵触
目的の氷を手に入れた三人でしたが、洞窟の入り口への道順を忘れてしまいます。
不確かな手がかりを頼りに進んだ末ようやく出口を見つけるも、そこで目にしたのは想像を絶する光景でした。
三人の前に広がっていたのは天が鈍く沈んだ赤色に包まれ、地には黒く異様に切り立った山脈と奇怪な形の岩山が点在する、不気味な世界 “ダークテリトリー” だったのです。
ユージオは様々な要因から心身が硬直しますが、必死にキリトとアリスに下がるよう促します。
その時、頭上から鋭い音が響きユージオは反射的に空を見上げました。
目に飛び込んできたのは、二つの飛行物体が激しく交戦する光景。よく見ると、どちらも巨大な飛竜に跨った騎士の姿でした。
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その姿形から、一方は公理教会の整合騎士、もう一方は闇の軍勢の竜騎士だと三人は推測します。
互角の戦いが続く中、一瞬の隙を突いた整合騎士の放った矢が闇の竜騎士の胸の真ん中を射抜き、竜騎士は落下していきました。
地面に激突した闇の竜騎士は助けを求めるかのように右手を伸ばしますが、そのまま息絶えてしまいます。
アリスはまるで吸い寄せられるように闇の騎士に近づいていきますが、キリトの必死の呼びかけで我に返り立ち止まろうとします。
しかし、そのときアリスは足を踏み外して倒れてしまい、右手の指先が人界とダークテリトリーの境界をほんの僅かに越えてしまったのです。
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禁忌目録第一章三節十一項には、【何人たりとも、人界を囲む果ての山脈を越えてはならない】と記されています。
アリスはこの禁忌条項に抵触してしまったのでした。
その直後、動揺する三人の前に突如として不気味な人の顔が空間に浮かび上がります。
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「シンギュラー・ユニット・ディテクティド。アイディー・トレーシング」
「コーディネート・フィクスト。リポート・コンプリート」
謎の顔は神聖語のような言葉を残して消えていきました。
整合騎士デュソルバートの登場とアリスに下される宣告
洞窟での出来事の後、村に急ぎ戻った三人は不安な思いを押し殺して眠りについたのでした。
翌朝、キリトとユージオはいつも通りギガスシダーのもとへ向かいます。
昨日起こった事を忘れようと、いつにも増して集中して斧を振るう二人。しかし午前中の仕事を終え、昼食の時間になったとき、彼らが恐れていたことが現実のものとなります。
現れたのは長い赤銅色の弓が印象的な白銀の騎士。それは、昨日ダークテリトリーで目撃した整合騎士の姿そのものでした。
アリスの父であるルーリッド村の現村長、ガスフト・ツーベルクが丁重に挨拶をすると、整合騎士は特異な響きを持つ声でこう答えました。
「ノーランガルス北域を統括する公理教会整合騎士、デュソルバート・シンセシス・セブンである」
騎士が村を訪れた目的は禁忌条項に抵触した、つまりダークテリトリーに侵入したアリスを捕らえ連行することでした。そしてその後、彼女を審問し、処刑するとガスフトに告げたのです。
アリスを救おうとするキリトとユージオの葛藤
僕たちの世界なら、たとえどんな状況でも子供を守るのが親の務めだと思います。しかし、この物語の世界では公理教会と教会が定める禁忌目録が絶対的な存在なのです。
村長のガスフトは複雑な思いを胸に秘めながら整合騎士デュソルバートの命令に従い、我が子アリスを拘束具で縛り上げます。
今まで愛情を持って育ててきた娘を自らの手で拘束しなければならない親の気持ちは、僕には想像できません…。
キリトは必死に整合騎士に掛け合いますが、聞き入れてもらえません。
そこで、ユージオと力を合わせてアリスを逃がそうと試みます。
しかし行動を起こそうとした瞬間、ユージオの右目に激しい痛みが走り、頭の中には公理教会と禁忌目録に絶対従うよう命じる声が響き渡ります。
ユージオは、まるで両足から地面に根が生えたように、身動きが取れなくなってしまいました。
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そんなユージオを見て、アリスは泣き叫ぶ事もなく静かに微笑みます。
ユージオにはアリスの青い瞳が「さようなら」と言っていたように見えました…。
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