キリトとアリスが怪物ミニオンを撃破し、しばしの休息をとっている頃、ユージオは90階の “大浴場” で高位の整合騎士と思われる大男と対峙していました。
第十八話「伝説の英雄」のあらすじと感想①
ユージオと整合騎士長ベルクーリの対峙
アニメではカットされていましたが、原作でユージオはこの大男に “キリトとの類似点” を感じています。
殺気は微塵もないのに、相対しているだけで強烈な圧を感じさせる瞳。
その視線に込められているのは相手に対する純粋な興味と戦闘そのものへの喜びでした。ユージオが知る人間の中でそんな眼で敵を見ることができるのはキリトだけだったのです。
さらに、ファナティオの生死を尋ねた際の不器用な取り繕いなど、キリトを思い起こさせる言動の数々に、ユージオは敵意を削がれる思いを抱きます。
いつも通り、内面描写が省略されているため妙に怒りっぽい印象のユージオと大男との会話も一段落し、いよいよ戦闘開始となります。
伝説の英雄
伝説の英雄ベルクーリと時穿剣の脅威
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
「整合騎士長――ベルクーリ・シンセシス・ワン、参る!!」
“ベルクーリ” という名を聞いた瞬間、ユージオの脳裏に「どこかで聞いた名だ」という思考が閃きました。しかし、彼はすぐに雑念を払い、敵の技を見切ることだけに集中します。
ユージオの戦略は明確でした。
ベルクーリが秘奥義を繰り出すか、完全支配術を発動する瞬間の隙を狙い、”音の速さで跳ぶ” という意味のアインクラッド流秘奥義「ソニックリープ」を叩き込み、確実に先を取ることです。
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
二人の間の距離は8メートル。
ノルキア流やハイ・ノルキア流にこの間合いから届く秘奥義は存在しないため、ユージオはベルクーリの言う”奥の手” が斬撃の間合いを伸ばす類の武装完全支配術だと予想しました。
正当流派の弱点である “堂々としすぎる型” からベルクーリの攻撃の軌道を予測したユージオは、ぎりぎりの間合いで回避。剣を振り終えたベルクーリめがけてソニックリープを発動させ、疾風のように突進します。
しかし、ベルクーリまであと一歩というところで、ユージオは空中に陽炎のような “透明な揺らぎ” を視認します。
その揺らぎに触れた瞬間、左胸から右脇へと灼熱の衝撃が走り、大量の血液を噴き出しながら吹き飛ばされてしまいました。
ユージオは揺らぎに触れる直前にわずかに勢いを殺せたため、致命傷は免れました。しかし、肺にまで達する深手を負い、神聖力を大量に蓄える温水を利用して治癒術を唱えます。
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
「俺はただ素振りで空気を斬ったわけじゃねえぜ。言わば……ちょいと先の、未来を斬ったのよ」
この “未来を斬る” というオシャレな表現をより正確に言い換えると、”剣を振り終えた後もその軌跡に威力が残留する” ということでしょう。
単発技の攻撃力と連続技の命中力を兼ね備える、まさに “接近戦殺し” の武装完全支配術です。
ベルクーリの剣の銘は “時穿剣(じせんけん)”。
この時穿剣は、世界が生まれた時から存在した神器《時計》の針を剣に鍛え直したものでした。
この時計については、第三話で少し触れた(アニメではカットされていました) “時刻みの神器” のことかもしれませんね。
ユージオの戦略と青薔薇の剣の記憶解放
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
「エンハンス……アーマメント」
ベルクーリの圧倒的な自信に気圧されながらも、ユージオは覚悟を決めて完全支配術の結句を唱えます。
この場面が第十五話の映像の使い回しだったのは残念でした。表情の描写は良かったものの、剣を突き立てるガニ股のポーズはあまり格好良くありませんでしたね…。
二度目の戦闘は、ユージオの緻密な計算と強運が相まって展開。最終的には、ベルクーリの虚をついたタックルが決まり、諸共に浴槽へと着水します。
アニメでは2メートル近いベルクーリを、タックル一発で制するというミラクルを起こしていますが、原作では秘奥義「メテオブレイク」で崩してからタックルを決めるという、より現実的な描写がされています。
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
「――リリース……リコレクション!!」
浴槽の底に青薔薇の剣を突き立て、ユージオが唱えたのは武装完全支配術の第二段階、剣に眠る力の全てを解き放つ《記憶解放術》でした。
永久氷塊と青薔薇、剣に秘められた悲しい物語
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
武装完全支配術には《強化(エンハンス・アーマメント)》と《解放(リリース・リコレクション)》という二つの段階があります。
《強化》は武器の記憶を部分的に呼び覚まし、新たな攻撃力を発現させること。一方、《解放》は武器の記憶を全て目覚めさせ、荒ぶる力を解き放つことです。
ユージオの青薔薇の剣は、キリトの “黒いの” やファナティオの “天穿剣” 、アリスの “金木犀の剣” 、そしてベルクーリの “時穿剣” とは異なる出自を持っています。
それは《永久氷塊》とその中に閉じ込められた《一輪の薔薇》という二つの源から生まれたということです。
アニメではカットされていますが、この永久氷塊と薔薇には悲しくも美しいエピソードがあります。
真夏でも寒く一年中氷が溶けることがない北の山脈の頂に鎮座していた永久氷塊は、どんな生き物も近づけない凍てついた土地で長年孤独の時を過ごしていました。
ある年の春、風が永久氷塊のすぐそばに小さな種を運んできました。
永久氷塊が自らを毎日少しずつ溶かして作ったわずかな水をその種に与え続けると、種は夏の訪れと同時に美しい一輪の青薔薇を咲かせます。
しかし、初めての友達ができ喜ぶ永久氷塊と青薔薇の楽しい時間は長くは続かず、ついに別れの時が訪れます。
「醜く枯れ果てる前に、僕を君の中に閉じ込めてくれないか」という青薔薇の願いを叶えた永久氷塊は、悲痛な祈りを捧げます。
この永久氷塊の思いは、ユージオの中に鮮明に残されていたのです。
原作では、キリトやユージオの剣の記憶について1ページ以上を割いて詳細に描写されています。
アニメではほぼカットされているこれらの描写は、キャラクターの心理や背景をより深く理解する上で非常に重要です。物語をより深く知りたい方は、ぜひ原作を読んでみることをお勧めします。
氷と薔薇の力を駆使したユージオの奮闘
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
ユージオは “全てを凍らせる永久氷塊の記憶” を解放し、わずか数秒で広大な浴槽全体を氷結させました。
首の半ばまで氷中に没したベルクーリは、驚嘆の声を上げつつも、自慢の筋力で無理矢理に分厚い氷を割り砕き脱出を試みます。
ユージオは当初から、この氷漬けだけで戦闘が終わるとは思っていませんでした。
彼の剣の二つの源、永久氷塊と青薔薇。ユージオは満を持して “命を咲かせる青薔薇の記憶” を解放します。
「咲け――青薔薇!!」
周囲の天命を吸い取って咲き誇る青薔薇。
凍てついた氷の世界に数百にも及ぶ満開の青薔薇が広がり、途方もなく美しく、しかし冷酷な光景が現れました。
ユージオの真の狙いは、強制的な天命の削り合いに持ち込み、ベルクーリに唯一勝っている要素 “天命の総量の差” で勝利することでした。
ユージオとベルクーリを包んでいく氷の膜…二人の天命が残りわずかになった時、突如現れたのは元老長チュデルキンでした。
元老長チュデルキンの出現と予期せぬ展開
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
「システム・コオォォォル!ディープ・フリィィィ――ズ!インテグレータ・ユニット、アイディー・ゼロ・ゼロ・ワァァァァン!」
ベルクーリを散々罵倒したチュデルキンが、聞き覚えのない神聖術を唱えます。すると、ベルクーリは石の彫像のように変化し、動かなくなりました。
「なかなか使えそうなコマも見つかったことですし……ねェ?」
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
――キリト。 ―――アリス……。
二人の名前を心の中で呼んだところで、ユージオの意識は途切れました。
ユージオVSベルクーリの回は、会話が非常に多いのでテンポが悪くなってしまった印象です。
ここは敢えて改変し、より多くの動きを加えたり会話を調整しても良かったのかもしれませんね。
ベルクーリの声を担当した諏訪部順一さんは、個人的にFF10のシーモアのイメージが強く、どうしても腹黒さを感じてしまいました(笑)
ユージオの描写に関しては、心情描写がほぼカットされているため、常に怒りっぽく怒鳴っているイメージになってしまっている気がします。
原作小説のアリシゼーション編は大部分が “ユージオ目線で進行” し、彼の繊細さや優しさ、そして強さを内面から存分に描いています。
しかし、アニメではキリトを中心に置いているため、ユージオの魅力的な部分がほとんどカットされ、その魅力が大幅に減じられているのが非常に残念です…。
次回につづく…
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