キリトとアリスが怪物ミニオンを撃破し、しばしの休息をとっている頃、ユージオは九十階の《大浴場》で高位の整合騎士と思わしき大男と対峙していました。

アニメではカットされていましたが、原作でユージオはこの大男の事を”キリトにどこか似ている”と感じています。
殺気らしい殺気など微塵もないのに、相対しているだけで強烈な圧を感じる瞳、その視線に込められているのは「相手に対する純粋な興味」と「戦闘そのものへの喜び」。ユージオが知る人間の中でそんな眼で敵を見る事ができるのはキリトだけでした。
そのほかにも、ファナティオの生死を尋ねた時の不器用な取り繕いなど、キリトを思い起こさせる言動の数々にどうにも敵意を削がれるものがあるとも…。
さて、相変わらず内面を全く描写しないので妙に怒りっぽいユージオと、大男の会話も一段落し、いよいよ戦闘開始です。
伝説の英雄
ベルクーリと『時穿剣』
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
「整合騎士長――ベルクーリ・シンセシス・ワン、参る!!」
“ベルクーリ”という名を聞いた瞬間、どこかで聞いた名だ、という思考が一瞬脳裏に閃いたユージオでしたが、雑念をうち捨て敵の技を見切る事だけに集中します。
ユージオの狙いはベルクーリが秘奥義を繰り出す、もしくは完全支配術を発動する瞬間の隙に”音の速さで跳ぶ”という意味のアインクラッド流秘奥義《ソニックリープ》を叩き込み、確実に先を取る事。
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
彼我の距離は八メートル。ノルキア流やハイ・ノルキア流にこの間合いから届く秘奥義は存在しないため、ユージオはベルクーリの言う”奥の手”とは斬撃の間合いを伸ばす類の武装完全支配術だと予想します。
正当流派の持つ弱点である”堂々としすぎる型”からベルクーリの攻撃の軌道を予測したユージオは、ぎりぎりの間合いで回避。
剣を振り終えた体勢のベルクーリ目掛けてソニックリープを発動させ、疾風のように突進するユージオでしたが、ベルクーリまであと少しというところで空中に陽炎のような”透明な揺らぎ”を視認します。
そして、その揺らぎに触れた瞬間、左胸から右脇へと灼熱の衝撃が抜け、その部分から大量の血液を噴き出しながらユージオは吹き飛ばされました。
揺らぎに触れる直前にわずかながら勢いを殺せたので致命傷には至りませんでしたが、肺にまで達する深手を負ったユージオは神聖力を大量に蓄える温水を利用して治癒術を唱えます。
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
「俺はただ素振りで空気を斬ったわけじゃねえぜ。言わば……ちょいと先の、未来を斬ったのよ」
“未来を斬る”というオシャレな言い方をもう少し正確に表現すると”剣を振り終えた後もその軌跡に威力が残留する”といったところでしょうか。
単発技の攻撃力と連続技の命中力を兼ね備える”接近戦殺し”の武装完全支配術を生み出すベルクーリの剣の銘は『時穿剣』(じせんけん)。
この時穿剣は、世界が生まれた時から存在した神器《時計》の針を剣に鍛え直したものでした。
この時計については、アリシゼーション第三話で補足として少し書きましたが(アニメではカットされていたので)、ユージオが子供の頃に読んだ絵本に出てくる”時刻みの神器”の事かもしれませんね。

青薔薇の剣の記憶解放
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
「エンハンス……アーマメント」
完全支配術を詠唱する時間を与える余裕を見せるベルクーリの圧倒的な自信に気圧されながらもユージオは覚悟を決め結句を唱えます。
この場面がまさかの十五話の使い回しだったのはとても残念でした。顔の表情は好きですが、その後の剣を突き立てているガニ股ポーズがあまりかっこよくは…。
この二度目の戦闘は、ユージオの緻密な目算半分強運半分、で最終的にはベルクーリの虚をついたタックルが決まり諸共に浴槽へと着水。
アニメでは二メートル近いベルクーリをタックル一発で制するというミラクルを起こしていますが、原作ではきっちり秘奥義《メテオブレイク》で重心を乱してからタックルを決めています。
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
「――リリース……リコレクション!!」
青薔薇の剣を浴槽の底へと突き立てユージオが唱えたのは、武装完全支配術の第二段階、剣に眠る力の全てを解き放つ《記憶解放術》でした。
永久氷塊と青薔薇
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
武装完全支配術の二つの段階、《強化》と《解放》。
武器の記憶を部分的に呼び覚まし、新たな攻撃力を発現させることが《強化》。
そして、武器の記憶を全て目覚めさせ荒ぶる力を解き放つことが《解放》です。
ユージオの青薔薇の剣はキリトの”黒いの”やファナティオの”天穿剣”、アリスの”金木犀の剣”、そしてベルクーリの”時穿剣”とは少し違う出自を持っています。
それは《永久氷塊》とその中に閉じ込められた《一輪の薔薇》という二つの源から生まれたということ。
アニメではカットされていますが、この永久氷塊と薔薇には悲しく、そして切ないエピソードがあります。
真夏でも寒く一年中氷が溶けることがない北の山脈の頂に鎮座していた永久氷塊は、どんな生き物も近づけない凍てついた土地で何十年もの間孤独の時を過ごしていました。
ある年の春、風が永久氷塊のすぐそばに小さな種を運んできました。
永久氷塊が自らを毎日少しずつ溶かして作ったわずかな水をその種に与え続けると、種は夏の訪れと同時に美しい一輪の青薔薇を咲かせます。
しかし、初めての友達ができ喜ぶ永久氷塊と青薔薇の楽しい時間は長くは続かず、ついに別れの時が訪れます。
「醜く枯れ果てる前に、僕を君の中に閉じ込めてくれないか」という青薔薇の願いを叶えた永久氷塊…
そんな永久氷塊の悲痛な祈りは、ユージオの中にありありと残っていたのでした。
キリトの剣やこのユージオの剣の記憶のお話はアニメではほぼカットされていますが、原作には一ページ以上を使って描かれています。

原作はアニメとは違って、キャラクターの心理・心情や情景・背景などがしっかりと描写されていますので物語を深く知りたい方は是非読んでみてください。
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
《全てを凍らせる”永久氷塊の記憶”》を解放させ、わずか数秒で広大な浴槽全体を氷結させたユージオ。
首の半ばまでが氷中に没していたベルクーリでしたが、驚嘆の声を上げつつも自慢の筋力だけで無理矢理に分厚い氷を割り砕き脱出を試みます。
ユージオはもとより自分とベルクーリを氷漬けにしただけで戦闘が終わるとは思っていませんでした。
二つの剣の源、永久氷塊と青薔薇。
ユージオは満を持して《命を咲かせる”青薔薇の記憶”》を解放します。
「咲け――青薔薇!!」
周囲の天命を吸い取って咲き誇る青薔薇。
凍てついた氷の世界に数百にも及ぶ満開の青薔薇…途方もなく美しく、しかし冷酷な光景がそこにありました…。
ユージオの真の狙いは強制的な天命の削り合いに持ち込み、ベルクーリに唯一勝っている要素《天命の総量》の差で勝利する事。
ユージオとベルクーリを包んでいく氷の膜…二人の天命が残りわずかになった時、突如現れたのは元老長チュデルキンでした。
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
「システム・コオォォォル!ディープ・フリィィィ――ズ!インテグレータ・ユニット、アイディー・ゼロ・ゼロ・ワァァァァン!」
ベルクーリを散々罵倒したチュデルキンが聞き覚えのない神聖術を唱えると、ベルクーリは石の彫像のように変化し動かなくなりました。
「なかなか使えそうなコマも見つかったことですし……ねェ?」
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
――キリト。―――アリス……。
限界を迎えていたユージオの意識は二人の名前を呼んだところで途切れました。
ユージオVSベルクーリは会話が非常に多いので、やはりテンポが悪くなってしまった感じです。
ここは敢えて改変し、動きを多くしたり会話を変えたりしても良かったのかもしれませんね。
ベルクーリの声は諏訪部順一さんでしたが、僕の中で諏訪部さんはFF10のシーモアのイメージが強くどうしても腹黒さを感じてしまいます(笑)
あと、ユージオなんですが、心情描写がほぼカットされているので凄く怒りっぽくていつも怒鳴ってるイメージになってしまっている気がしますね…。
原作小説のアリシゼーション編は大部分がユージオ目線で話が進んでいて、繊細で優しく、そして強いユージオの内面を存分に描いてくれているのですが、アニメではベースをキリトに置いているのでそのあたりはほぼカットされていて、魅力が半減(1/10くらい?)しているのが非常に残念です。
次回につづく…


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