ヴァニタスの手記 7巻
「演算開始 解析完了 座標確定 定義干渉 事象改竄 存在固定」
―クロエ
―ヴァニタス
音楽を奏でながら小難しげな4文字熟語を唱えるとかいう、お洒落な中二ホイホイのシーンです。
そりゃもうカッコいいとしか言えない。
クロエが巨大なオルガンで“演算”を書き換え、実体が存在しないネーニアの存在を固定し攻撃しますが、残念ながら返り討ちにあってしまいます。
真名を汚されたクロエは自我を失い暴走。彼女を止めるためにヴァニタスも“存在固定”を行うという熱い展開に。
「蒼月の吸血鬼」を継ぐヴァニタスだから同じようにできたのか、それともこのオルガンの力によるものなのか分かりませんが、このオルガン、割ととんでもない兵器です。
それにしても本当にスチームパンクというかこれ、超ファンタジーですね。ジャンル詐欺もいいとこ。
「オレは!!信じますよ!!!」
―ノエ
ヴァニタスは吸血鬼と人間の関係性から(ましてやヴァニタスは蒼月の吸血鬼の眷属ですし)、自分の言葉など吸血鬼に信じてもらえる訳がないと思っていました。
おそらく、過去にもそのような経験をいくつも積み、その度に辛い思いをしたんじゃないかと思います。
でも口喧嘩の最中とはいえ、ヴァニタスが声を荒げて否定したのは多分、まだどこかで諦めてなくて、上手くいかない憤りからなんじゃないかなと思いました。
それに対しノエはさらに詰め寄り、「吸血鬼」ではなく「ノエ個人」を強調し、「一緒にするな」と文句を言ったんですね。
もはや相棒といって差し支えない関係にあるヴァニタスを「信じる」ことなんて、今のノエには当然の事。きっとヴァニタスはまだ、過去の境遇からずっと縛られ、それでも足掻いているんでしょう。
いつか互いに心の底から信頼しあえるようになればいいですね。
「俺のお願い きいてくれるよね?」
「断るが??」
―ローランとオリヴィエ
ついにバトルシーンをお披露目したオリヴィエ。チェーンソーのような刃が付いた剣『高潔なる黒(オートクレール)』を振るう彼はやはり中々の癇癪持ちでした。
普段からローランのことで苦労しているオリヴィエは口ではこう言っていますが、2人のコンビネーションは抜群。背中合わせに戦う姿は流石の一言です。
結局オリヴィエの発言は無視され一方的に話を進めるローランでしたが、オリヴィエも自分の意見が通らないことなんて最初から分かっていたでしょうに、冷たい対応をせずにはいられない。
彼は重度のツンデレさんです。
「オレは君が好きだ 君の願いを叶えるのはオレだ オレでなくてはならない だから吐き出してみろ 本当の願いを それがどれだけくだらない欲望でも 醜い感情でも ――呪いであったとしても 受け止めてやる!」
―ヴァニタス
冒頭の「~オレでなくてはならない」という台詞は以前にも言っていましたが、いつもの彼の捉え所のない言葉とは少し違うような感じがします。
ジャンヌの振り絞った「たすけて」に対し、あのヴァニタスが自信満々に「任せろ!」と応える違和感満載の場面。
今までなら「どうにかしてやる」とか「殺してやる」とか、少し違う返答があったはずなんですが…。
本人自身も「あんな事を言うつもりはなかったのに」とノエに八つ当たりをしていましたし、ノエの真っ直ぐさに当てられたのでしょうか。
普段と違ってまるで主人公のような台詞ですが(※ヴァニタスは主人公です)これはこれでカッコいいです。ギャップ萌えとかいうやつでしょうかね。
「人間も吸血鬼も混血も オレは等しく嫌いだ」
―ヴァニタス
人間からも吸血鬼からも侮蔑されていた「混血」のダンテは、自分の存在はそういうものだと割り切っていました。
初めてヴァニタスと出会った時も、予め自分が混血であることを伝えますが「それがどうした」と一蹴されてしまいます。
それはダンテにとって初めての経験で、ヴァニタスに興味を持つのに充分過ぎました。ノエはヴァニタスのこの表情が嫌いでしょうけど。
「人間も吸血鬼も、醜悪で身勝手な生き物」だとカタコンブでも言っていましたが、こんな種族観を持ってしまっているのは、何より自分自身がどちらにも属しきれていないからなのかな…。
それにしても種族の違いなんて関係ない、という聖人のような台詞はよくありますが、平等に嫌いだという主人公はそういないでしょう。
これはなんとも正直な言葉で、虐げられている側からすれば、愛とか正義なんて胡散臭い言葉よりもよっぽど疑いようがなくスッと受け入れられるでしょうね。
「君が望むなら一緒に地獄にだって落ちてやる どこへだって行く なんだって出来るんだ でも君がいないなら嫌だ」
―ジャン・ジャック
過去の悲しい経験から「どれだけ護りたいと思っていても言葉にしなければ分からない」と言うノエの言葉にハッとしたジャン・ジャックは、暴走するクロエの手を掴み、自分の想いを必死に伝えました。自分の弱さを隠すことなく、本音を曝け出した彼の言葉にクロエは反応します。
ほんと一途だなぁジャン・ジャック…。
この「ジェヴォーダンの獣編」は、凄惨な過去を持つ2人が、その出来事が伝説になるほど長い間ずっとお互いを想い護り続けた、悲しいお話です。
ジャン・ジャックもクロエも、ノジャンヌもノエも皆、もっと早く自分の想いを言葉にして相手に伝えられていたのなら、物語は少し変わっていたのかもしれませんね。
ヴァニタスの手記 8巻
「振りかざすな 内に留めろ 正義なんてものは己が進む先を示し照らすための灯火であればいい なにが“正しいか”ではなく なにを“譲れないか”で行動しろ」
―ヴァニタス
アストルフォとの3戦目。
彼が吸血鬼を異常なほどに憎む理由を、ノエはローランから聞きました。
それは彼がまだ幼かったころ、助けた吸血鬼に家族を皆殺しにされてしまったからでした。
それを知ったノエの心に迷いが生じてしまう訳ですが、似た境遇のヴァニタスの事もおそらく、脳裏をかすめたんじゃないかな…。
しかしそんなノエに道を示してくれたのはヴァニタス。正しさがどうこうではなく自分の信念を貫け、とノエに言い聞かせます。
「誰かの正義は誰かの悪だ」
いや、その通りだなと思いました。民を守るために戦う勇者も、視点を変えれば凶悪な殺戮者ですからね。
そしてヴァニタスのこの表情、自分も思うところがあるんでしょうか。
「少なくともお前はそれでいい」という意味深な台詞といい、一層ヴァニタスの過去が気になりましたね。
身体能力をブーストさせる薬を過剰摂取し、何がなんでもノエを殺そうと襲い掛かるアストルフォ。
その強さに、ノエは絶体絶命のピンチに陥りますが、後ろに退くのではなく前に出ることで、アストルフォとの戦いを制することができました。
この、「正義」とは何かを考えさせられるシーンで戦うのが『正義の柱(ルイゼット)』という名の槍を持つアストルフォっていうのが良き。
ちなみに、この戦いでノエは左腕を犠牲にしてしまったんですが、腕が切断されるのは想像の15倍痛かったらしいです。
何その具体的な倍率。
ヴァニタスに「腕切れちゃったので縫ってもらえませんか」とべそをかくノエが可愛かった。
戦闘中のカッコよさとのギャップがノエの良いところです。
「だって 気持ち悪いだろう! オレのような人間のこと 好きになる奴なんて………」
―ヴァニタス
『ジェヴォーダンの獣』事件を経て、ヴァニタスはジャンヌと距離が縮まった…というか、彼女に全力疾走で距離を詰められたヴァニタスは、10日間も寝込んでしまうほどに混乱し衰弱しきっていました。
「胸が苦しい」「動悸が止まらない」「何をするにもジャンヌの顔が頭から離れない」…といったあからさまな症状を、「彼女に呪いを掛けられたとしか思えない」と言い張るヴァニタスに、さすがのオリヴィエも甘酸っぱ過ぎてむせ返すほど。
ヴァニタス曰く、この感情は「内側から自己を書き換えられるような気持ち悪さ」らしく、どうしても「恋」だと受け入れられない様子。
あれだけドヤ顔で「受け止めてやる!」って言ってたのにこの体たらくですよ。
自分が最低な人間だという事は理解している…というよりは、コンプレックス塗れな自分を深く知られたくなくて、わざと敵を作って孤独であろうとしているんでしょうね。
いつもの彼からは想像もつかない弱々しい表情。もう少し自分の事を受け入れてあげてほしいです。
一方そのころ
ジャンヌも自分の中に芽生えた恋心に気付き、ルカとドミニクは取り乱してしまいます。
というかまぁ、そりゃそうだ。相手はあのヴァニタスですからね。一般常識のお話です。
しかしジャンヌはその感情に、ヴァニタスとは真逆の反応を示します。
というのも、『処刑人』として道具の様に生きてきた彼女は、一生「恋」とは無縁だと諦めていたようで、恋をすることが出来た人間らしい(吸血鬼らしい?)自分にただ喜んでいるようです。
そういうことを言われると応援したくなるじゃないか…。
でも、誰が相手かは然程関係ないのかも?
恋する暴走機関車となってしまったジャンヌですが、果たしてあのヴァニタスとハッピーエンドを迎えることができるのか、今後の展開が楽しみですね。
ドミのトラウマ
最近めっきり出番がなかったドミニクさんですが、彼女は心に大きな闇を抱えていました。
幼い頃から姉のベロニカや兄のアントワーヌから役立たずだと扱われ、ルイが死んだのは自分と双子だったからだという事実を突きつけられ…。
極めつけは、熱にうなされたノエがドミニクのことをルイだと錯覚してしまったという、大好きな人からの無意識の暴力。
自分の存在意義が分からなくなってしまった幼いドミニクは、「ルイじゃなく、自分が死ねば良かったのに」と鬱状態に。
女性らしい綺麗な髪をバッサリと切り落とし、一人称も「僕」に変えてしまいます。
貴族の娘としてあり得ない行動ですが、姿だけでもルイになろうとしたのでしょう…悲しすぎる。
さっきまで凄い楽しそうな話だったのに…。
望月先生の作品はコメディとダークな話の緩急が唐突で激しい気がします。まぁ、そこがいいんですけど。
ここまでが第1巻~第8巻までの私イチオシのシーンです。
“救い”とは何なのか。作中でもノエが言っていましたがそれがこの漫画のキーワードなのでしょう。
結構ダークな話が多く、でも唐突にギャグが始まったりするので読む人を選ぶかもしれませんが、作画も綺麗だし結構面白いなーという印象です。
色々ネタバレがあったとは思いますが、気になった方は是非コミックスを手にとって読んでみて下さい。
(第8巻以降の名シーンは随時追記していく予定です。)
2021年夏のアニメ化が決定しました!
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