精緻な絵で魅せる、王道ファンタジー!!
月刊モーニングtwoで連載中の『とんがり帽子のアトリエ』は、白浜鴎(しらはま かもめ)先生によるファンタジー漫画です。
2018年には全国書店員が選んだおすすめコミック一般部門1位に選ばれました。
とんがり帽子のアトリエ1巻©Kamome Shirahama
村の小さな仕立て屋で育った女の子・ココは、小さい頃から魔法が大好きで強い憧れを持っていましたが、「魔法は生まれながらの魔法使いにしか使えない」のがこの世界の常識。
しかしある日、ココの前に魔法使いキーフリーが現れ、ココは好奇心から禁止されていた「魔法発動の瞬間」を見てしまいます。
魔法は、特別な道具さえあれば誰にでも使える。その事に気付いてしまったココは、小さい頃に怪しい魔法使いから買った「魔法の絵本」を使って危険な魔法を発動してしまい、母親を巻き込んでしまいました。
母親を救うため、ココの魔法使いとしての冒険が始まります。
今回はそんなジブリに出てきそうなファンタジーの世界を紹介していきたいと思います。
ネタバレもありますのでご注意ください。
「ありがとうって言われるの大好きなの!だからありがとう!」
―テティア
とんがり帽子のアトリエ1巻©Kamome Shirahama
キーフリーのアトリエの元気担当テティア。ドヤ顔がすごい。
「ありがとう」の言葉が好きだという美しい心の持ち主ですが、どうか大人になっても変わらないでいて欲しいです。
ありがとうの無限ループを回避するにはテティアを相手にせず放置すればいいとリチェが教えてくれました。割と酷い扱いですね。
助けてもらって当然のように思う人も中にはいるのかもしれませんが、たとえ小さなことでも感謝の気持ちを忘れないようにしたいものです。
とんがり帽子のアトリエ1巻©Kamome Shirahama
まだ魔法について全然慣れていない状態で第一の試験に挑んだココでしたが、不注意で道具を水浸しにしてしまいます。
使いにくいペンとこぼれたインクでは全然上手くいきませんでしたが、仕立て屋として慣れ親しんだ道具に持ち替え、得意な「直線」を存分に活かした魔法陣を描き、困難を突破します。
それにしてもココ、凄いバランス感覚ですよね。普通グルンって逆向きになっちゃいそうですが…。命綱無しでこれは怖い。
とんがり帽子のアトリエ1巻©Kamome Shirahama
アガットの新人いびりによる突然の試験を突破し、正式にキーフリーの弟子になったココ。
小さな頃からずっと、無理だと言われ続け、それでも諦め切れなかった魔法使いになれた瞬間です。
自分の取った軽率な行動が母を巻き込み、世界を大きく揺るがす事になってはいても、これはやっぱり嬉しいですよね。
とても責める気にはなれません。
とんがり帽子のアトリエ1巻©Kamome Shirahama
魔材屋『星の剣』で自分にあった道具を選んでいたココは、窓の外にいた『つばあり帽』を見つけてしまいます。
『つばあり帽』を追いかけ、魔法によって転送された先にはなんとドラゴンがいました。無理ゲーだろこれ。
この時点で、ココはまだ皆と打ち解ける事ができていません。その上自分の不注意で皆を巻き込み、こんな事になってしまっています。
挙句の果てにはアガットが魔法を描くのを邪魔してしまうという失態続きで、見ているだけで胃が痛くなります…。
でもやっぱね、ドラゴンとか出てきたらテンション上がるんですよね。カッコいいから。
とんがり帽子のアトリエ2巻©Kamome Shirahama
ココはそれでも心折れることなく、自分にできる事を一生懸命果たそうとします。
ドラゴンを突破するために、4人の全員のアイデアを合わせてテティアの夢だった「雲の布団」の魔法を創り上げます。
雲ではなく、現状用意できる「砂」を材料にした砂のクッションになってしまいましたが、目的は達成できました。
魔法の名前はアガットによって却下され、『竜の砂床』というカッコいい名前が付きました。さすガット。
目をキラキラ輝かせている3人の横で、死んだ目をしているアガットの表情が好きです。
「どうしようもない焦りがあって急いで学びたいと思うなら生活にしてしまうのが一番だよ “生きる”ことより教えるのが上手い先生はいないから」
―キーフリー
とんがり帽子のアトリエ2巻©Kamome Shirahama
キーフリーが先生っぽいことを言ってますね。
水が嫌いでどうしようもなかったキーフリーは、どうやら洗い物をサボるために水の魔法を必死に練習したそうで、今では水の魔法は得意な魔法にまでなっています。
苦手を苦手のままにして逃げずに向き合い、頑張って克服したものは大きな力になってくれます。
ココもいつか苦手な「曲線」を克服し、母親を助けられるような立派な魔法使いになるでしょうか。これからの成長が楽しみです。
とんがり帽子のアトリエ2巻©Kamome Shirahama
魔法で調理したご飯を持って外で食べようと提案するココでしたが、外は生憎どしゃ降りの雨。
しかしキーフリーはお構い無しに豪雨の中へと足を踏み出します。
この魔法欲しい…!傘差しても絶対どこか濡れちゃうんですよね、便利だなぁ…。
野菜が多めでテティアに褒められているキーフリーの1コマが微笑ましいですね。
あと「2年前の出来たてシチュー」が個人的に地味にツボだったりします。食べてみたい。
とんがり帽子のアトリエ2巻©Kamome Shirahama
大雨で氾濫した暴れ川を魔法のアイテム『水裂の魔法剣』で切り裂くキーフリー。
これは子供心にクリティカルヒットですね。
普段クールなアガットも流石に興味津々。分かる。その気持ちは非常に分かるぞ少女たち。
でも負傷者の傷の手当を早くしてあげてください。
バトルシーンが少なめなので、こういうカッコいい武器類が出てくるのはこの漫画では貴重です。
とんがり帽子のアトリエ2巻©Kamome Shirahama
先生たちが不在となってしまった直後に調子に乗って川に転落してしまったクスタス君(と巻き込まれたココ)。
突然の緊急事態にココとアガットは自分にできる事を必死に考えます。
アガットは一族の中で落ちこぼれ扱いされているようで、家族を見返すために日々努力をしているみたいです。
劣等感に押し潰されそうになったところでしたが、ココの言葉で再び前を向くことが出来ました。
「これが余のメラゾーマだ」と言わんばかりのド派手な魔法を放ちますが、効力は「光って綺麗」なだけ。
ココが魔法を使うまでの充分な時間稼ぎにはなりましたが、一般人に「それだけかよ」と馬鹿にされていたのがちょっと可哀想でした。
「子供のこと子供って名前の生き物だと思ってて 人間扱いしない大人…きらい…」
―リチェ
とんがり帽子のアトリエ3巻©Kamome Shirahama
誰よりも「自分」を尊重するリチェは、あれこれ指示してくる大人を嫌っています。子供は子供なりにちゃんと自分の意思を持って生きています。
ペットに躾をするように言う事をきかせるのではなく、間違えないように正しい道を示すだけでいいんですよね。それがなかなか難しいんですけど…。
大人になれば、責任や協調性も必要になります。
大人を嫌い、自己中心的な考えのリチェは4人の弟子の中でも一番「子供」なのかもしれません。
とんがり帽子のアトリエ3巻©Kamome Shirahama
ココの持っていた魔墨の瓶がいつの間にか『つばあり帽』の手によって細工されていました。
それに気付いたキーフリーとノルノアさんでしたが、キーフリーは魔警団へ報告しようとしません。
流石にノルノアさんも「お前何言ってんの?」状態。
キーフリーはノルノアさんの記憶を消去し、細工された魔墨の瓶の存在を隠匿してしまいます。
いつも優しいキーフリーがなんだか黒幕みたいな行動をしてますが、どうにもキーフリーは過去に『つばあり帽』となにやら因縁があったみたいで、ようやく得た手掛かりに必死になってしまったようです。
キーフリーが敵になるのかとドキドキしました。
それにしてもノルノアさんの逆三角形眼鏡ステキ。2つ重ねて六芒星眼鏡にもできるんですよ。
「一石二鳥一挙両得!『喜びは いつだってツインテール』だよ!」
―テティア
とんがり帽子のアトリエ3巻©Kamome Shirahama
ちょっと何言ってるのかよく分からないですが、とにかく「ありがとうフェチ」なテティアは世界中の言葉でありがとうを聞きたいらしく、そのために大変な試験も頑張って挑戦しようとしています。
そしていつか一人前になって独り立ちできるようになったら、二股に分かれたツインテールのとんがり帽子を作るのが夢なんだとか。将来の夢をしっかり持って頑張っているテティアは凄いですね。
とんがり帽子のアトリエ3巻©Kamome Shirahama
熱に魘されるココを治すために頑張ったタータは意識の変化があったようです。
銀彩症というハンデを受け入れ、自分なりに成長する事を決めたタータ君。
「どうせ俺なんて」みたいな卑屈さがちょっとあったんですが、良い表情になりました。
いつか成長して素敵な杖を作ってココに会いに行ったとき、告白でもするんですかね?頑張れ少年!
とんがり帽子のアトリエ4巻©Kamome Shirahama
普段クールでぶっきらぼうなオルーギアですが、心の中では親友と親友の弟子たちを心配しています。
『ほっか石』という、特製の湯たんぽみたいな魔法の石を5人分用意していました。
特に無茶するキーフリーを陰ながら支える、オルーギアの優しさが見える1ページ。
こう見えてオルーギアの魔法はどれも優しく暖かいものばかりなのでギャップが凄いです。
こういう、苦労性の相棒キャラ良いですね。私イチオシのキャラです。
「情けなくても 描きためておいてよかった 君の助けになれる!」
―ユイニィ
とんがり帽子のアトリエ4巻©Kamome Shirahama
第二の試験に挑む事になったアガットとリチェ、そしてクックロウのアトリエの弟子であるユイニィ。
超ネガティブで自信が皆無なユイニィは、リチェと意見が合わず最初ちょっとギスギスしていました。
しかしなるほどこのカップリングになりますか。
ユイニィは事前に準備していた色んな魔法で、「自分の魔法」しか使えないリチェをサポートしました。
ただのヘタレかと思ってたけど、彼はなかなかに良い男でしたね。
自分が使いたい魔法だけ使えたらそれで良いと思っていたリチェですが、これで考えを改めたでしょうか。
とんがり帽子のアトリエ4巻©Kamome Shirahama
リチェとアガットは『つばあり帽』の禁止魔法によって鱗狼に変えられてしまったユイニィを助けるために立ち向かいます。
しかし今は第二の試験の途中。連れているメルフォンを放置するわけにもいかないので、二手に分かれることになりました。
ユイニィを助けたいリチェでしたが、使える魔法の種類が大きく偏ってしまっているためにメルフォンの誘導を任されてしまいます。
リチェはこのとき、今までの自分を悔やんだでしょう。やりたくない事をやらないまま、自分の気に入った事だけしていたツケが来たんですね。
「僕らが戦わない理由はね 戦いにならないからだよ」
―キーフリー
とんがり帽子のアトリエ5巻©Kamome Shirahama
『つばあり帽』によって地下深くへと落とされ、弟子をかばって致命傷を負ったキーフリー。
利き腕は怪我でまともに動かないはずなのに、魔法器や足で魔法陣を描き、金に変えられた古代ロモノーン人や、『透明のつばあり帽』と戦います。
大体こういう台詞は無傷な奴が言うもんですが、瀕死の状態で言い放ち、その力量を見せつけるのも中々にカッコいいです。
普段の優しいキーフリーからは想像がつきませんが、実は滅茶苦茶強いんですよねこの人。
とんがり帽子のアトリエ5巻©Kamome Shirahama
これは28話の扉絵なんですが、こういう「光バージョンと闇バージョンの鏡合わせ」みたいな構図は中二心をくすぐるので好きです。
禁止魔法を刻まれ、鱗狼にされてしまったユイニィを助けるには、同じく禁止魔法を使わなければ無理だと『つばあり帽』に吹き込まれます。
仲間を助けるために過ちを犯してしまうのかと冷や冷やしました。
どうやら『つばあり帽』はどうしてもココに禁止魔法を使わせて仲間に引き込みたい様子ですが…ココは普通の少女ではないんでしょうか…?
「あらゆる炎が俺の僕だ 布が凶器とは笑わせてくれるぜ!」
―オルーギア
とんがり帽子のアトリエ5巻©Kamome Shirahama
第二の試験中はお留守番で今回出番無いのかなと思っていた、私イチ押しのオル先生がとても良い場面で颯爽と登場。
『透明のとんがり帽』相手に苦戦中のキーフリー達を助けに入ります。カッコ良すぎかよ。
どうやらリチェが機転を利かせて『大人』を頼った様子。
さらに、『リチェの得意な小さな魔法陣×キーフリーの繋ぎ方×ユイニィの手帳にあった窓の矢×兄から貰った扉の紋』の合わせ技を自分で考え、他人の魔法を受け入れ、しかも成功させるという、今までのリチェでは考えられない驚異の成長を見せてくれた相乗効果もあって、とても好きなシーンです。
地味に吹き出しの形が熱でユラユラしているところとか、表現が細かくて凄い。
とんがり帽子のアトリエ5巻©Kamome Shirahama
今回の試練で大きく成長したリチェとユイニィ。
お互いがお互いに、大切な事を気付かせてくれました。
ユイニィに刻まれた禁止魔法は残念ながら完全には解除できませんでしたが、「自分以外の誰かになりたい」と言っていたユイニィは今回の経験から「本当のボクに戻りたい」と思うようになりました。
鱗狼は体表を覆う鋭い鱗がありますが、番となる相手を傷付けないように自ら鱗を剥がす習性があるそうです。
リチェを傷付けないように、まるで元々鱗狼だったかのように当然の如く自分の鱗を剥がすユイニィ…実は順応性高い説。
臆病だけど優しいユイニィは本能でそれが出来ちゃうんですかね。
以上、コミックス1巻~5巻の印象的なシーン紹介でした。
派手なバトルシーンとか、カッコいい特殊能力だとかの描写はちょっと少なめですが、ファンタジーの世界観がしっかり描かれていて、ハリーポッターのような魔法の世界に引き込まれてしまいます。
子供の頃の純粋な気持ちを思い出させてくれる作品で、現代社会で頑張っている大人たちに是非読んで貰いたいです。
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