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第5章 憤怒王国イーラ
STAGE1 <迷宮の魔女>
「ロードオブヴァーミリオン」画集 黒-魔種・機甲・不死-編より
No.130メデューサ
『大崩壊』直後に王国全体を覆った夕暮れ色の結界は
如何なる『ロード』の力をしても破る事はかなわなかった。
侵入出来る者はなく。脱出出来る者もなく。
外界と隔絶されたイーラ王国が
辿った運命を知る術はなかった…
暗黒の口を開く『ガヌの地下坑道』から吹く風の中
戦士が掴み取ったのは1枚の薄紅色の花びらだった。
「これはイーラの王都エルムにしか咲かぬ
イラリスの花弁…
この坑道が結界の内側に通じているという
情報は正しいようだ」
ドゥクスの言葉に、
戦士は暗黒の坑道へと足を踏み入れる。
『迷宮の魔女・メデューサ』――
彼女の待ち受ける、獣の顎のその中へ…
5つ目の『アルカナ』を求めて『憤怒王国イーラ』を訪れたニド達でしたが、王国と外界を隔てる結界に足止めをくらってしまいます。
『ガヌの地下坑道』から、結界の内側へ侵入できるという情報を得た一行は、吹き抜ける風に漂う花弁を見つけ、その情報が正しいという確信を得ます。
しかしそれは、ニドの持つ『アルカナ』を狙って誘き寄せようとした、迷宮の魔女【メデューサ】の罠だったのです。
【メデューサ】は、『王都エルム』に坐する「不死種の女王」を討ち、その座を奪おうとしていましたが、ニドに敗れるとその役目を任せ、満足気に『絶対死』を受け入れました。思い上がった不浄の女王が倒れればそれで良いと高く笑いながら。
そして、【メデューサ】との出会いの中で小さな疑問が生まれます。
『アルカナ』を持つ『ロード』でも『使い魔』でもないドゥクスが、なぜ【メデューサ】の力を前に『石化』しなかったのか…。
自らの使命で手一杯なニドは、今はまだその疑問を、大して気に留めることはありませんでした…。
STAGE2 <永遠の夜の都>
「ロードオブヴァーミリオン」画集 黒-魔種・機甲・不死-編より
No.081ヴァンパイアロード
石畳の街路は蘇った死体が歩き、
骨の馬が引く馬車が行き交う。
泥のように淀んだ暗い空には
翼を広げて楽園を謳歌する何千もの
支配者たちの影。すなわち、吸血鬼…
街で生きた人間を見かけたが、
彼らの目には意志の光というものが無い。
彼らは食糧として生かされている家畜でしかなかった…
王都エルムは『永遠の夜の都』。
不死種たちの楽園だった…
空を覆う吸血鬼たちが一斉に唱和する声が響き渡った。
「ようこそ、第7の『ロード』! 歓迎の宴席へ来れ!
『永遠の夜の女王・ヴァンパイアロード』が
お招きだ…!」
地下坑道を抜けた先は、『憤怒王国イーラ』の王都でした。
しかしその異質な景色は一行を絶句させてしまいます。
陽はいつまでたっても昇ることなく、死が蔓延る吸血鬼達の世界…。
そこは『永遠の夜の都』となり果てていたのです。
ニド達を招いた【ヴァンパイアロード】は、家畜として生きるしかない人間たちを滑稽だと嘲笑います。
そんな我欲のためだけに『創世主』の力を使うのかと、ドゥクスは怒り問い質しますが、吸血鬼の女王は、「父親の汚名を晴らそうと奮起するニドのそれもまた我欲である」と指摘し、牙を剝きだします。
しかし、『アルカナ』を持つ者にしては、思いの外手応えの無かった【ヴァンパイアロード】のその牙はニドに届く事は無く、彼女は無様にも命乞いの言葉を口にします。
「私は『ロード』なんかじゃない!『あの者たち』と契約して玉座を得ただけの『使い魔』なのよ…!助けて…!何でもする…!死にたくない…!消えたくない…!」
憐れに“生”に縋る不死種の女王は、本当の『ロード』の居場所を語り、逃れられない『絶対死』の運命に飲み込まれるのでした。
STAGE3 <砂のレクイエム>
「ロードオブヴァーミリオン」画集 白-超獣・亜人・神族・海種-編より
No.005セイレーン
西へと進軍した。
やがて行く手に、『メランジ砂丘』が姿を現す。
かつてこの地には商都が栄え、賑わいを見せていたが
それも遠い過去。
今はただ廃墟が砂に埋もれてゆくばかり…
砂上の廃墟に、美しい歌声が響くのを聞いた。
歌には聞き覚えがあった。
いつか何処かでこの歌を聞いた…
いったいそれはいつ? 何処で?
思い出せぬその歌に、
戦士は目から涙が流れるのに気づいた…
廃墟に美しい女の顔を持つ魔鳥が一羽。
『死者に唄う魔鳥・セイレーン』――
戦士を見つめて唄っていたのは、
亡き王のための鎮魂歌…
【ヴァンパイアロード】の言葉通り西に進軍、『メランジ砂丘』を渡るニドたちを、謎の歌声が招きます。
ニドは、いつかその歌を聞いたことがありました。
歌声の主は、かつてアルド二世が『異界の証』として王宮で飼っていた【セイレーン】でした。
魔鳥は、ニドを見つめると続けました。
「セイレーンは歌う セイレーンは歌う
罪着て死んだ王のため 罪見て立った息子のため
哀れな息子 世界の誰もがお前の父を呪ってる
でも世界の何処の誰よりも 息子が父を憎んでる
息子は知らない 父が夢見た楽園の色 父が抱えた勇気の色…
誰かがそれを歪めた事… 誰かが真実を隠した事…
息子は知らずに剣を取る 父の罪を切り裂くために
進め進め『使い魔』どもよ! 『ロード』どもを皆殺せ!
剣をひと振りするたびに お前の父が血を流す
敵をひとり殺すたびに お前の父が千度死ぬ
だからセイレーン 心に決めた
息子を殺して罪止めようと… 死せる王を救おうと!」
ニドはその歌を思い出しました。
それは、母親が歌っていた子守歌。(…こんなん枕元で歌われた日には怖くて眠れんのだが…恐るべし、母親のセンス…。)
戸惑いの中で二ドは襲い来る【セイレーン】と対峙し、辛くも撃退することができました。
しかし魔鳥は倒れる間際、短い唄を残します。
「なぜ気づかない? なぜ振り向かない?
今のお前は操り人形 後ろで笑うものがいる
鳥籠のセイレーン… お前の父が好きだった…
だから教える… お前は父のように… 利用されて… い…」
【セイレーン】のその言葉に、ニドはこれまで一番身近に居た、ドゥクスへと剣を向けました。
教え子に疑念を向けられた鎧の戦士は、それも本望であると呟きます。
しかし、真実を知るためには故郷『アヴァリシア』へ向かう他無く、そのためには『イーラ』の結界を張る『ロード』を討つしかないと、ドゥクスは冷たく諭すのでした。
STAGE4 <黒き竜の神殿>
「ロードオブヴァーミリオン」画集 白-超獣・亜人・神族・海種-編より
No.002ニーズヘッグ
切り立った断崖に聳える神殿から立ち上る漆黒の妖気は、
上空で巨大な魔方陣を描き、
黒いオーロラを四方へと放っていた。
イーラを外界から隔絶する『憤怒の結界』は、
この神殿に棲む者が生み出している。
その者こそこの国を支配する真の『ロード』…
神殿の最奥部。絡み合う樹木の根の中に、
それは囚われていた。
北欧神話の『神々の黄昏』の日に飛翔するとされる黒い魔竜。
『終末の黒き竜・ニーズヘッグ』――
立ち上る瘴気は黒々と渦巻き、
赤い双眼は『憤怒』に燃え…
この魔竜は世界の全てを憎んでいる…
小石の一つ、花の一輪に至るまで…
『憤怒王国イーラ』の西の果てに、『ロード』の棲む神殿がありました。
そこから立ち上る漆黒の妖気が、夕暮れ色の結界を作り出していました。
その結界を生み出していたのは、世界樹の根に囚われ、無限に魔力を奪われ続けていた【ニーズヘッグ】でした。
何者かの手によって無理矢理『ロード』にされ、結界のエネルギー源として扱われていた黒き竜は、その憎悪を目の前の人間、ニドに向け暴れだします。
神話に伝わる伝説の魔物を、『イーラ』の結界のために呪縛したのは一体誰なのか、そして何のためにこんな事を…?謎は深まるばかりですが、【ニーズヘッグ】を討ち果たしたニドの手には、合計6つの『アルカナ』が揃いました。
そしてエネルギーの供給が途絶えたことによって結界は消失し、故郷『アヴァリシア』へと続く道が開かれたのでした。
つづく…。
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