「ロードオブヴァーミリオン」シリーズを通して人気が高かった使い魔キャラクター【ウィッチ】こと【マルグリッド】を中心としたサイドストーリー『偉大なる魔女のサーガ』。
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偉大なる魔女のサーガ『魔女と呪われた王国』
CHAPTER 1 霧の谷
「ロードオブヴァーミリオン」画集 黒-魔種・機甲・不死-編より 「偉大なる魔女のサーガ」
ある程度仲間も集まり、戦力として申し分がなくなった自称『偉大なる魔女』の軍団は、目的を新たに行動を開始しました。
それは、ルクサリアの『ロード』が持つ『アルカナ』を奪うこと。
【シャドゥナイト】と【酒呑童子】のふたりは国境の村で待機していますが、残るメンバーを従えてシヴィラダの都を目指します。
しかし、そんなリーダーの根拠の無い独断で「近道」をしたのですが、結果、深い霧の谷を彷徨い続けて、既に2日が経とうとしていました。
小さな魔女の理不尽な八つ当たりの矛先は、叩かれ脛を押さえ悶えている【ギガス】だけに留まらず、後ろを付いてきていた【ユニコーン】にも向けられます。
汚れなき乙女しか乗せぬ筈が、この数週間の旅で荷馬扱いされ自尊心を踏みにじられた聖馬は、喚く少女を無視し顔を背け、その背に乗せた薬草の束の中にいた【アルラウネ】だけが無邪気にちっちゃな手を振り返していました。
そして、「ワンちゃん」と呼ばれ、威厳も何もない誇り高き大自然の精霊【ワーウルフ】と、いつものように口論を交わしていたその時――。
「この谷は死の気配が満ちておる…」
何もない空間から、【死神】が突如現れ、一同を驚かせました。
不吉な事を呟く【死神】に【ワーウルフ】は声を荒げますが、その警告の通り、段々と近づいてくる「死臭」を、その良く利く鼻が嗅ぎ取りました。
「腐臭だ。ただの不死種じゃねえ。今までに味わったこともねぇやばさだ…」
再び、霧に溶け込むように消えた【死神】に構う暇なく、【ワーウルフ】達はその場から逃げ出します。
しかし、一番に声を上げ行動を起こしそうな【マルグリッド】は、思いつめたような表情で、呆然とその気配のする方を見ていました。
逃げても逃げても、その気配は遠ざかることなく、むしろどんどん近づいてきていました。
すると不意に、これまで嗅がなかった「花の匂い」が、【ワーウルフ】の鼻腔に飛び込んできます。
これまで出逢わなかった何かを期待して、花の匂いのする方へと走りました。
しかしその時既に花の匂いと共に、腐臭の元凶はすぐ後ろに迫っていました。
振り返るとそこには、小山ほどもある巨大な――。
「…【カースドラゴン】……」
呪いの紋様を全身に刻まれた赤黒いドラゴンを前に、【ギガス】と【ユニコーン】は既に戦闘を覚悟し身構えていましたが、やはり【マルグリッド】は呆然としたまま。
それを見た【ワーウルフ】も覚悟を決め、少女を庇うように前に出ます。絶望的なこの状況に、背後から声が聞こえました。
「そなたが足を踏み入れることを禁じられし場所を忘れたか?おのれの縄張りに帰るがいい!」
声の主は、黒い大剣と黒い鎧を身に付けた、ルビーのような赤目をした美しい青年でした。
彼の声に【カースドラゴン】は咆哮と共にゆっくりと向きを変えて、霧の中へと去っていったのです。
「もはや心配はいりません。あの【カースドラゴン】は決して我らの城に足を踏み入れることはありません」
青年の言葉に周りを見渡すと、突然霧が開き、色とりどりの花が咲く庭園と、石造りの巨大な城が姿を現したのです。
するとその光景に感嘆の声を漏らしている【マルグリッド】に、青年は片膝をつきながら手の甲に唇をつけ、旅で疲れている一行を城へと招きました。
それを見た【ワーウルフ】は不機嫌になりましたが、その時【死神】が【ワーウルフ】にだけ聞こえる声で警告を残します。
「あの若者、生きた人間ではない…」
闇の力に魂を売った、生と死の境界の存在である【暗黒騎士】。それが青年の正体でした。
そして、庭園に一輪として枯れることなく咲く春夏秋冬それぞれの季節の花たちが何を意味するのか。
そんな事を考えていた【ワーウルフ】でしたが、リーダーはそんな事などお構いなしに、無邪気な声で叫びます。
「こんな素敵なお城にお呼ばれするなんて最高だわ!さあ、みんな!わたしについてらっしゃい!なんの不安もいらないことはこの私が保証するわよ!」
【ワーウルフ】は大いに不安になったのでした…。
今回のチームに【シャドゥナイト】と【酒呑童子】がいなかった理由ですが。
なんと【ワーウルフ】【ギガス】【ユニコーン】【アルラウネ】【死神】の合計コストが、デッキコスト上限ぴったりの90。
【ウィッチ】は本来10コストですが、自分は『ロード』だと言い張っているので主人公扱いでコスト0なのでしょう。
よく考えられてるなぁ…。
CHAPTER 2 呪われた王国
「ロードオブヴァーミリオン」画集 黒-魔種・機甲・不死-編より No.148カースドラゴン
大陸中を旅し名を馳せた格闘家である【ワーウルフ】でも、こんな山中に立派な城が建っていることを知りませんでした。
無邪気なリーダーを前に警戒心を解くわけにはいかない【ワーウルフ】は【暗黒騎士】に問い質します。
「ここは、ルクシア城。そう呼ばれています」
それ以上は深く説明されず、ふたりは早々にそれぞれ部屋へと案内されました。
外にある厩舎では【ギガス】と【ユニコーン】が疲れた身体を休めているのが見えます。
ひとりになった【ワーウルフ】に、またもや【死神】が突如現れ語りかけました。
「ルクシアとは、このルクサリア王国の古名よ…かつてこの地に栄え、滅び、そして忘れられた古い王国の名よ…」
城に足を踏み入れる前に感じた不吉な予感が蘇るのでした。
このとき【死神】は、入浴中の【マルグリッド】に気を遣って【ワーウルフ】がいる方の部屋に現れています。
この軍団の男性陣は案外みんな紳士ですね。
いや、いきなり煮込んで食べようとする巨人も居るんですけどね?
やがて晩餐の時間になり食堂に赴くと、城主である王女と対面しました。
ジゼル・ミレーゼル・アスモデウス・ルクシアーダ王女殿下。
【暗黒騎士】にエスコートされてやってきた彼女は、【マルグリッド】と変わらぬ年頃の、絵画から抜け出てきたようなとても美しい少女でした。(LoV2に登場した使い魔【アスモデウス】と彼女は関係なさそうです。)
慌ててうろ覚えの貴人に対する礼を取る【ワーウルフ】と、舌や頬の内側を噛みながらしどろもどろに挨拶する【マルグリッド】でしたが、王女の反応は予想に反するものでした。
「ロイス…?」
ジゼル王女の妹ロイスが【マルグリッド】と良く似ていたため、ジゼル王女は涙を流しすがりついてきたのです。
それは【マルグリッド】本人もが認めるほどに、肖像画に描かれた彼女と瓜二つでした。
やがてジゼル王女は、この国を見舞った「呪い」について話してくれました。
『大崩壊』以前、それは四百年ほど昔のお話。隣国との長き戦いの中にあったルクシア王国は敗戦に次ぐ敗戦で滅亡の危機にありました。
そんな時、ある屍霊術士の進言によって国王は「不死種の兵士の創造」に手を付け始めます。
それも、ただの兵士ではなく、強大なドラゴンの母子を召喚したのです。
その母と子は、互いの鳴き声だけが届くように別々の牢に幽閉され、様々な責め苦を与えられました。
やがてドラゴンの子が先に死に、子の声が聞こえなくなった母は何日にも渡って牢の中で暴れ、恨みと共に血みどろになって悶死したのです。
屍霊術士は子ドラゴンの脊髄液から作り出した顔料で、母ドラゴンの亡骸に呪詛式を書き込み、七日間にも及ぶ儀式を行いました。
母の怨念が子の苦痛で呪縛され、闇の生命に転化したそれが…
「…あなたたちが霧の谷で目にした、あの【カースドラゴン】が誕生したのです……」
【カースドラゴン】は、ルクシア王国にとてつもない戦力をもたらしました。今まで防戦一方だった隣国との戦は一転、勝利を得る事ができたのです。
しかし、最初は国を守るという純粋な願いから、禁断の秘法に手を出した国王だったのですが、一度得たその勝利が、彼に欲を与えてしまいます。
国王は屍霊術士に命じて、大陸全てを支配するための、更なる不死種のドラゴンの軍団を作ろうとしました。
しかし召喚されたのは、以前のようなドラゴンの母子ではなく、何百匹もの猛り狂うドラゴンの軍団と、それを率いるドラゴンの王でした。
術が施され【カースドラゴン】となったそれは、『超獣』の世界に版図を持つドラゴンの王の連れ合いだったのです。
七日七晩に渡って、ルクシア王国はドラゴンの群れに蹂躙されました。
それでも怒りが止む事がなかったドラゴンの王に、国王は娘であるジゼルとロイスを生贄として捧げようとしました。
しかし、我が子を自ら差し出した国王の行いは、逆にドラゴンの王の侮蔑を買い、王都は炎に包まれたのです。
もはやどうしようもなかったその時、とあるひとりの『魔種』が現れ調停者となり、王に告げました。
「王の二人の娘が、王の罪に相応しい二つの罰を引き受けるなら、ドラゴンの王の怒りは鎮められるであろう」
王の犯した二つの罪、それは「離別」と「永劫」。
「離別」の罪を与えられたロイスは、ドラゴンの王の息子のもとへと嫁ぎ、永遠に人間界を離れる事になりました。
そしてジゼルは、調停者が作り上げた呪いの結界の中で幽閉され続ける事になったのです。四百年経った今も、この城で「永劫」に…。
【ワーウルフ】はこみ上げる吐き気を懸命に耐えていました。
その所業を「正義」として行う人間はもはや、悪魔や鬼と呼ばれる存在よりも遥かに性質が悪い…。隣で青ざめた顔をしている「人間」の少女も同じく、それを噛み締めていました。
ジゼル王女が【暗黒騎士】に連れられ部屋を出たあと、【マルグリッド】は呟きました。
「ねぇ、王様…王様なら今の話を聞いてどう思ったかしらね…?」
それは誰に向かって呟いたのか分かりませんでしたが、その声はとてつもない悲しみがこめられていました…。
【マルグリッド】が部屋に戻るのを確認すると、【ワーウルフ】は【暗黒騎士】に詰め寄りました。
王女の妹と旅の軍団のリーダーが瓜二つだと知りながら、城に招いたのは何か企みがあっての事か、と。
「あいつは確かにドジで間抜けで平凡な、ただの人間の少女だ。それでも俺達はそれぞれの理由であいつを仲間でありリーダーであると認めたんだ。オオカミは群の仲間を決して見捨てない。このことだけは忘れるな。あいつに何かあったら…俺はお前を決して許さん…!」
対する青年も目をそらすことなく答えました。
「その言葉、心に深く刻みつけておくといたしましょう。そして、ぼくも申し上げておきます。ぼくの忠誠心はすべてあの方をお守りすることだけに捧げられています。もしあの方を傷つける者があらば、ぼくも決して許しはしない」
激しく睨み合うふたりを、夜の闇が包んだのでした。
【カースドラゴン】を生み出した、吐き気を催す邪悪の如き屍霊術を開発したのは、産まれたばかりの我が子を失った女性の屍霊術師でした。
すべての生き物を憎み、とりわけ親子の情愛、母子の幸せを憎悪するようになったその屍霊術士は「そんなに愛し合っているなら、いっそひとつに戻ればいい」という歪んだ思考のもと、生体実験を繰り返したのだとか…。
子を失った痛みを知っているのなら、こんな事できる筈がないと思うんですが…大きすぎる愛情を持つ母親だからこそ、なのでしょうか。
CHAPTER 3 陥穽
「ロードオブヴァーミリオン」画集 黒-魔種・機甲・不死-編より No.218アルラウネ
翌朝、目覚めた【ワーウルフ】が異変に気付きました。
辺りは何の音もせず、濃密な霧が城の周囲を覆い尽していたのです。
【マルグリッド】が眠っているはずの隣室に飛び込むと、そこに彼女の姿はありませんでした。
彼女だけでなく、外の厩舎にも【ギガス】と【ユニコーン】の姿は無く、そこに残っていたのは【ユニコーン】が渋々背に乗せていた山積みの大きな荷物だけだったのです。
【ワーウルフ】は城内を必死に探し回りましたが、ジゼル王女も【暗黒騎士】もそこにはおらず、いつもならその奇妙な状況に黙っていないであろう【死神】の名を叫ぶも、返事はありません。
しかし、その名が出たとき、異様な沈黙は破られたのです。
(…【死神】が……いるのか…?)
ぞっとするようなかすれ声とともに、黒い霧のようなものが輪郭の不鮮明なヒト型となって現れました。
かつてのルクシア王国の民だった、そのヒトのような影の群は、この「世界の何処でもない閉ざされた空間」に囚われていたのです。
この空間は、かつてドラゴンの王との停戦交渉を担った『魔種』の調停者が、その報酬としてこの地に作り上げたものでした。
『魔種』が見返りもなく他者のために行動をおこす事などあるはずは無く、その狙いは最初から、誰よりも強いマナの持ち主であるジゼル王女だったのです。
王城に閉じ込められたジゼル王女から「悲しみ」に溢れたマナを取り出し、この空間に囚われた影たちの「絶望」でマナを増幅させ、その『魔種』のもとへ未来永劫送り続ける…そんな仕掛けを作り上げた『魔種』のその名は、現ルクサリア王国を統べる『ロード』であり、まさに『偉大なる魔女』の軍団が倒すべく目指していた、地獄の賢王【ベルゼバブ】だったのでした。
王女の代わりに【マルグリッド】を、自分たちの代わりに【ワーウルフ】を【ベルゼバブ】に捧げようと手を伸ばす影たちに、獣人は激昂しました。
「ふざけるな!お前らはいつも自分の手を汚すことなく、誰かを犠牲にしてきたんだ!そんな連中の身代わりになんか誰がなるものかよ!もうお前たちの出番なんかこの世界にはないんだ!分かったらさっさと消えてしまえ!」
その怒気に、影は雲散しその場から消え去りました。
おそらくは【暗黒騎士】の仕業であろう、【マルグリッド】を狙ったこの状況に【ワーウルフ】は焦り、出口を探し再び駆けずり回っていました。
しかし出口は見つからぬまま、やがて疲れ果て倒れこんだ【ワーウルフ】の脳裏を、小さな違和感がかすめたのです。
それはこの「閉ざされた世界」に存在する筈がない、【ユニコーン】の背負っていた荷物。それがなぜ厩舎に残されていたのか…。
その理由の究明はひとまず置いておいて、それならばと【ワーウルフ】はその荷物を漁りました。
荷物の中にいたそれは、小さな魔女の下で一緒に旅をしていた仲間のひとり――【アルラウネ】。
魔法植物である【アルラウネ】はマナを探り当てる感覚に優れている。そう思った【ワーウルフ】は、ジゼルのマナを吸収し増幅するための、2つの空間を繋ぐ「マナの通り道」を探し始めます。
そうして【アルラウネ】の案内で辿りついた石柱から、ようやくふたりは「閉ざされた空間」から抜け出す事ができたのです。
心に深く刻みつけたはずの言葉はどこへやら、半日も経たぬうちに行動に移しちゃったお茶目な【暗黒騎士】。
しかし親切にも出口への手掛かりが残されていました。
彼は一体何がしたかったんだ…。
元の世界へと戻る道中、【ワーウルフ】は声を聞きました。
それはジゼルと、弱々しい【マルグリッド】の声。
王女は、小さな魔女に不死種を生み出す秘薬を投与しようとしていました。
四百年の孤独を知るジゼルは、妹にそっくりな【マルグリッド】を自分と同じように、城の中で永劫に生き続ける存在にしようとしていたのです。
一方、別の部屋では【暗黒騎士】が別の誰かと話をしていました。
「お喜びいただいて恐悦至極です。【ベルゼバブ】陛下…」
【暗黒騎士】は捕らえた魔女の軍団の身柄を【ベルゼバブ】に引渡し、その代わりにジゼルの罪を赦して欲しいと交渉していました。
【ベルゼバブ】は、もう間もなくやってくる「紅蓮の瞳の戦士」との戦いを終えてから、という条件付きでこれを承諾。
自身の『使い魔』である【暗黒騎士】に甲高く笑いかける声が響きました。
やがて声は遠ざかっていき、気付けば元の世界に戻ってきた【ワーウルフ】は【アルラウネ】とともに【マルグリッド】のもとへと急ぎます。
しかし行く手を阻むのは、美しくも冷たい微笑みを浮かべ、剣を構える【暗黒騎士】。
「もう一度あの閉ざされた空間に戻っていただくのは、あなたを一度殺し、その亡骸を従順な『不死種』に作り変えてからにしましょう」
【ワーウルフ】は【アルラウネ】を逃がすと高らかに吠え、戦鬼の顔となった【暗黒騎士】と激突しました。
つづく…
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