©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
前回の続き…
情動回路の封鎖により、カーディナル・サブプロセスはアドミニストレータの魂の片隅に封じられていました。
しかし、そんなカーディナルに千載一遇の機会が訪れます。
第十三話「支配者と調停者」のあらすじと感想②
カーディナル・サブプロセスの覚醒
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アニメでは、いきなりカーディナルvsアドミニストレータの対決が始まってしまい、カーディナルがどのようにして少女の体の支配権を確立したかという経緯が完全にカットされています。そこで、その過程を簡単に説明してみます。
まず、アドミニストレータは少女のフラクトライトに自らの思考領域と重要な記憶を上書き複写しました。その後、《シンセサイズの秘儀》を使用して少女の魂を強奪することに成功します。
この瞬間、場には二人のアドミニストレータ(コピーとオリジナル)が存在し、カーディナル・サブプロセスも両者の中に存在していました。
しかし、冒頭で書いた通り、アドミニストレータは情緒を司る情動回路を封鎖することでサブプロセスを封印することに成功していました。この封印はコピーにも有効だったため、少女の中にコピーされたサブプロセスも同様に封印状態にありました。
魂のコピーがもたらした予期せぬ結果
このままであれば、アドミニストレータは何の問題もなく計画を完了できたはずでした。
しかし、重大な異変が起こります。その異変とは、コピーとオリジナルという全く同一の人間が二人存在するという、本来ありえない事態による「魂の崩壊」でした。
これは第六話で描かれた比嘉の実験と類似しています。魂のコピーには構造的な欠陥があり、コピーされた側が自身がコピーであるという認識に耐えられず崩壊してしまうのです。
原作小説「ソードアート・オンライン 10 アリシゼーション・ランニング」では、この点について以下のような説明がなされています。
「まぁ、オカルトもんのヨタ話なんスけどね。もし、オリジナルとまったく同一のクローン人間を作ることができたら、二人の脳から発生する磁気がマイク・ハウリングみたいに共鳴しあって、両方とも吹っ飛んじゃうって、そういう話っス。それは眉唾としても――もしかしたら、ボクら人間の意識は、自分がユニーク存在じゃないっていう認識には根源的に耐えることができないのかもしれません――」
「……菊岡さんはALOで何度か会ったことがあると思いますけど、トップダウン型人工知能のユイちゃんも言ってました……。人間の意識とは構造からしてまったく違うはずのあの子でも、自分のコピーを作るのは恐ろしいそうです。もし、何らかの事故でバックアップが解凍されて動き出したら、多分わたしたちは互いを消滅させるために戦わざるを得ないでしょう、って……」
ソードアート・オンライン10アリシゼーション・ランニングより
原作の十巻と十二巻は説明が豊富で、”これぞSAO” という感じでとても面白いのですが、アニメではその説明の大部分がカットされてしまい、本当に残念です。
アニメを見てストーリーやキャラクターの心情・行動に違和感を覚える人は、ぜひ原作小説を見てください。アニメでは全く良さを伝えきれていないので!
話を本筋に戻しましょう。
アドミニストレータのコピーとオリジナルが対峙した瞬間、互いの魂の崩壊が始まりました。そして、先に崩壊したのはコピーである少女のフラクトライトでした。
その刹那、副人格であるカーディナル・サブプロセスが少女の支配権を確立し、賢者カーディナルが誕生したのです。
神々の戦い:カーディナルvsアドミニストレータ
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「システム・コール!ジェネレート・ルミナス・エレメント。ライトニング・シェイプ。ディスチャージ!」
少女の支配権を確立したカーディナルは、即座にアドミニストレータを消滅させるための行動に移ります。
カーディナルの作戦は《先手を取った後の削り合い》でした。
カーディナルはアドミニストレータの完全なコピーであり、全く同じ権限を持っていました。つまり、攻撃力、防御力、天命など、全てのパラメータが同一だったのです。
カーディナルの作戦は合理的でした。先手を取りさえすれば、同じ攻撃力で削り合っても最終的に勝利できると考えたのです。
最高レベルの神聖術が飛び交う、まさに”神々の戦い”の中で、戦況はカーディナルの計画通りに進みました。
しかし、あと二撃か三撃で勝敗が決するという瞬間、アドミニストレータは自分とカーディナルの決定的な「差異」に気づきます。
戦局を分けた肉体への適応差
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「システム・コール!チェンジ・フィールド・アトリビューション!」
アドミニストレータはまず、部屋に存在した高優先度のオブジェクトから高レベルの武器を生み出しました。同時に、カーディナルも同様にオブジェクトを武器に変換しています。
次にアドミニストレータは、戦場空間全体をシステム・コマンド禁止アドレスに指定し、全てのコマンドを封印しました。
これにより神聖術が使用不可能となり、二人は物理での戦いを強いられることになります。これこそがアドミニストレータの狙いだったのです。
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「この体では奴には勝てない……」
カーディナルのこの言葉は、子供の小さな肉体がアドミニストレータに劣るという意味ではありません。
カーディナルとアドミニストレータの決定的な差異は《肉体への適応》にあったのです。
カーディナルは、これまでよりも50センチも低い新しい肉体に十分適応できていませんでした。そのため、近接物理戦闘での距離感において、圧倒的に不利な状態に陥っていたのです。
己の敗北が決定的になったことを悟ったカーディナルは、即座に撤退する必要があると判断し、脱兎のごとく逃げ出しました。
そして、様々な理由からアドミニストレータでさえ立ち入ることのできない大図書室へと逃げ込んだのでした…。
次回につづく…
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