前回のつづき…
ユージオの意識が途切れると同時に、場面は塔外のテラスで休むキリトとアリスへと移ります。
「ユージオ? い、いやなんでも……」
キリトは一瞬、ユージオの声が聞こえたかのようなリアクションを見せますが、すぐに気のせいだと判断し、アリスとの会話を続けます。
しかし、原作ではこの場面で、約4ページにわたってキリトのユージオへの思いが詳細に描かれています。
第十八話「伝説の英雄」のあらすじと感想②
キリトにとっての初めての親友ユージオ
キリトは月が昇るまでの待機時間に、ユージオのことを延々と考えます。
ルーリッド村で初めて出会ってから2年間、ユージオとの共にある日々が当たり前になっていました。しかし、今のように会いたくても会えない状況に陥ると、妙に心細さを感じます。
キリトは、生まれて初めて “同性の親友” と呼べる存在を得たことを、照れくさくも認めざるを得ませんでした。
キリトは自身の度し難い性向ゆえに、これまで同年代の同性を認めることができず、クラインやエギルといった人間性豊かな大人たちとさえ、心の底まで打ち明けられる関係には至らなかったと振り返ります。
アスナに対してさえ、自分の内面の弱さを吐露できたのは、アインクラッド崩壊の際、二人の意識がまさに消え去ろうというその直前でした。
©川原 礫/アスキー・メディアワークス/SAO Project
現実世界では、運動面でも学業面でも特筆すべき才能を持たなかったキリトでしたが、SAOの世界に閉じ込められた途端、トッププレイヤーの一人となりました。
それ以来、抜きん出ることの快感に魅了されてしまったと自己分析します。
そして、SAOから解放された後も、周囲の人々や自分自身が、自らを特別な存在として認識するよう無意識に誘導していたことを否定できない、とも。
©川原 礫/アスキー・メディアワークス/SAO Project
ユージオの剣技に対するキリトの評価
そんな自分がなぜユージオの前では飾らない素の姿でいられるのか、キリトは考えを巡らせ、一つの結論に達します。
それは、この世界においてユージオが自分を遥かに上回る能力を備えているから。
特に剣に関しては、ユージオは天性の才を持ち、知覚力、判断力、反応速度など、全ての面で自分を大きく引き離していると、キリトは評価しています。
原作では、ユージオの剣技の天稟が幾度となく描かれていましたが、アニメではそのほとんどがカットされているため、彼の能力が十分に伝わらず、頼りなく感じてしまう面があります…。
キリトが初めて得た本当の親友ユージオとの明るい未来を想像していると、「何をニヤニヤしているのですか」とアリスに声をかけられ、長い夢想は終わりを告げます。
原作のアリシゼーション編はユージオ視点で進行することが多く、キリトのユージオへの感情が詳しく描かれたのはこの場面が初めてです。
この部分を読むことで、キリトのSAO時代の仲間たちへの思いや、一期・二期と比べて外向的に見える理由も理解できるように感じました。
キリトとユージオの関係性を表す非常に重要なエピソードであるため、アニメでも後々必ず語られるだろうと予想されます。
キリトとアリスの交流、饅頭を通じた心の距離縮小
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
さて、アニメ版がこの回のメインに据えたのは、残念ながらキリトとアリスの交流でした。
二人が今後の事を話し合う中で、話題は空腹へと移ります。
気取った口調で話している最中にお腹が鳴り、それをキリトにからかわれたアリスが照れ怒りするシーンは可愛かったですね。
「ポケットを叩けば饅頭が二つだ」
キリトは大図書室を出る際に両ポケットに詰め込んでおいた二つの蒸し饅頭を取り出します。
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
「ジェネレート・サーマル・エレメント……アクウィアス・エレメント……エアリアル・エレメント」
アリスは、キリトが熱素で饅頭を加熱しようとするのを制し、風素、熱素、水素の三つの素因を巧みに操作して、蒸し器と同じ効果を生み出し饅頭を蒸します。
「さすがは、あの料理上手のセルカのお姉さん、というところだな」
このキリトの一言が、彼らの当初の計画を覆すきっかけとなります。
キリトとユージオは、アリスが《記憶の欠片》を奪われ《敬神モジュール》を挿入されている以上、言葉だけでは説得できないと考えていました。そのため、カーディナルの短剣でアリスを一時凍結させる作戦を立てていたのです。
しかし、キリトはここで方針を変更します。アリスと戦い、致命傷を負わせることなく気絶させて95層まで運ぶか、覚悟を決めて全てを話すか。キリトは後者を選びました。
「君には妹がいる、そう言ったんだ。話すよ……君が受け入れるかどうかは判らないけど、俺が事実と信じることの全てを」
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
第十八話の展開は、予想とは異なるものでした。
ユージオ対ベルクーリの戦闘と、キリトのユージオへの思いが中心になると考えていましたが、尺の都合か、話が一気に進められました。
一期、二期を担当した伊藤智彦監督と、今回新たに就任した小野学監督の対談で、“男の友情をしっかり描く” という言及がありました。
原作の《アリシゼーション》編の序盤はキリトとユージオの友情を中心に描いていくので、アニメ版でも男の友情をしっかりと描いて、見ている人たちの心を熱く動かしたいなと思っています。
しかし、これまでの話ではカットが多く、あまり深く描かれていなかったため、今回のために取っておいたのかと思っていましたが、予想に反して全カットされてしまいました…。
ただ、この重要なテーマが全く触れられないということはないでしょう。おそらく二クール目のラストあたりで取り上げられるのではないかと予想しています。
キャラクターの内面描写に長けていた伊藤監督なら、キリトとユージオの友情をどのように描いたのか、ついつい想像してしまいます。現在の演出とは異なる、より深みのある描写が見られたかもしれませんね。
次回につづく…
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