前回のつづき…
キリトとの激しい戦いの中で、ユージオは記憶を取り戻しました。
しかし、その後の展開は予想外のものでした。
ユージオは口元に仄かな笑みを浮かべると、突如として武装完全支配術を発動。キリトとアリスを氷漬けにしてしまいます。そして、二人を置き去りにしたまま、昇降盤で上層へと昇っていきました。
アニメでは、この直後に100階に到着したユージオの前に元老長チュデルキンが現れ、氷漬けにされたキリトとアリスの処遇について会話が交わされることになります。
第二十一話「三十二番目の騎士」のあらすじと感想②
ユージオの内なる葛藤と決意
アニメでカットされている、記憶を取り戻したユージオがチュデルキンに会うところまでの話を少し紹介します。
ユージオは、額に埋め込まれた敬神モジュールから伝えられる「最高司祭に全てを捧げ、公理教会を守るために戦え」という命令は、抗いがたいほど厳烈なものでありながら、同時に最上の蜜のように甘美でもあったと振り返っています。
そのため、キリトの懸命な呼びかけと全力の剣戟がなければ、その支配から目覚めることができなかったそうです。
そして、アリスが戦いに加わらず見守ってくれたおかげで、大きな傷を負わずに済んだとも。
ユージオによると、アリスの実力は驚異的で、整合騎士となった自分でさえ歯が立たないほどだったとか。もしアリスがキリトと共闘していたら、目を醒ます間もなく斬り倒されていただろうと振り返っています。
ユージオは、敵であったアリスがキリトと共闘していたことに思いを巡らせます。
自分たちを連行した時も、「雲上庭園」で再会した時も冷淡だったアリスを変えたキリトに、複雑な感情を抱くユージオ。
しかし、アドミニストレータの策略に陥って仲間を裏切り、大切な記憶を捨てた自分には、もはやそれをどうこうする資格はないと考えます。
残り少ない本来の自分でいられる時間で罪を償わねばならないと、ユージオは覚悟を決めるのでした。
「反逆者二人は氷の中に閉じ込めてきました。元老長閣下」
「いえ、とどめは刺していません、元老長。反逆者を足止めせよとの、最高司祭様のご命令でしたので」
アニメでは無表情で冷静に話すユージオですが、その頭の中では、記憶が戻っていることをチュデルキンに悟られないようするにはどうすればいいのかを必死で考えていました。
――考えるんだ。あいつみたいに。
これまでずっとキリトの後ろに隠れ、困ったときはすぐに相棒を頼り、重大な決断を全て任せてきたユージオ。この難局を切り抜けるため、彼が初めて一生懸命考え抜いた末の演技だったのです。
アドミニストレータとの対峙と再シンセサイズ
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
チュデルキンをなんとかやり過ごしたユージオは、アドミニストレータのベッドに近づき呼びかけます。
「……最高司祭様」
無表情で、抑揚のない声。
ユージオは “整合騎士ユージオ・シンセシス・サーティツー” を完璧に演じようとしています。
演技が苦手な彼がリファレンスにしたのは、何年も感情を殺して暮らしていた、孤独なルーリッド村での少年時代でした…。
「……お誂え向きに記憶の穴があったから、そこにモジュールを挿入してみたけれど、横着はよくなかったかしらね……」
アドミニストレータの囁きは、まるでユージオの目論見を見透かしたかのようでした。
ユージオは1メートルの距離まで近づき、術式を唱えられないようにした後、胸元に忍ばせたカーディナルの短剣を刺そうとしていたのです。
自分に “記憶の穴” などという空白の過去がある自覚が全くなかったユージオは、最も愛する人のことを考えます。
彼の脳裏には、最愛の人であるアリス・ツーベルク、そしてそのアリスと同じくらい大切な相棒キリトの姿が鮮やかに浮かんでいました。
…………アリスとキリト。二人の笑顔を、もう二度と見ることはできないのかもしれない。でも、たとえこの場所で命を落とすのだとしても、最後の瞬間まで二人を忘れることは決してない。
…………できることなら、記憶を取り戻したアリスとキリトと一緒にルーリッドの村に戻りたかったけれど……でも、もうそれを望む権利は、僕にはない。アドミニストレータの誘惑に負けて自分を見失い、誰より大切な二人に剣を向けてしまった僕には。
SAO アリシゼーション・ユナイティングより
アニメではほとんどカットされていますが、原作小説にはアリスやキリトに対するユージオの想いがたくさん散りばめられています。
アニメを見てユージオというキャラクターに少しでも興味を持った方は、ぜひ原作を読んでみてください。アニメではユージオの魅力がほとんど引き出されていないのです。
繊細で優しく、そして強いユージオという素晴らしいキャラクターを、より深く知ってもらいたいものです。
ユージオの記憶と愛する人々への想い
アドミニストレータに全身を麻痺させられたユージオは、額のモジュールを引っ張り出されます。その瞬間、幼い頃の光景が目の前に垣間見えました。
きらきらと輝く金色の髪の少女アリス。そしてその隣には、元気よく跳ね回り、いたずらっぽい笑みを浮かべる漆黒の髪をした少年。
アドミニストレータは、ユージオの額から抜き取った敬神モジュールに愛おしそうな視線を注ぎながら、こう言いました。
「このモジュールは、完成したばっかりの改良型なの。これでシンセサイズすればその瞬間から心意の力を使えるようになるわ」
ここで、この回前半のアリスの疑問が解き明かされます。
本来、心意技や武装完全支配術、秘奥義や神聖術の要諦は長い研鑽を経て初めて身につくものです。しかし、この改良型敬神モジュールをシンセサイズすれば、効率の悪い訓練なしで様々な術や技を使用可能になるのです(現状では初歩的な技に限られる)。
意思の力で麻痺を突破
アドミニストレータは、再びユージオに命令します。
シンセサイズに必要な、自身の心の扉を開け放す術式《リムーブ・コア・プロテクション》を唱えよ、と。
ユージオは、それを唱えた時点で、今度こそ身も心も整合騎士になってしまうことを知っていました。
彼は必死に、胸元の短剣をどうにかしてアドミニストレータに刺そうとします。しかし、強力な麻痺術によって、自分の意思では全く体を動かせない状態でした。
―――動いてくれ、僕の右手。
―――僕がいままでの人生で繰り返してきた、たくさんの過ち。整合騎士に連れ去られるアリスを助けられなかった、その後何年も助けに行こうとしなかった、そしてようやく旅の終着点まで辿り着いたのにそこで道を見失ってしまった、そんな僕の弱さを償うために。
SAO アリシゼーション・ユナイティングより
ユージオは、キリトの言葉を思い出します。
「この世界では、剣に何を込めるのかが重要だ」
その瞬間、強力な意思の力が湧き上がり、右手の麻痺が解けました。ユージオは、渾身の力でアドミニストレータに飛びかかったのです。
ユージオvsアドミニストレータ
しかし、ユージオの短剣がアドミニストレータの体に迫る寸前、突如現れた紫色の光の障壁がその動きを阻みました。ユージオは右手に左手を重ね、全力で障壁を突破しようと試みます。
短剣がわずかに障壁を貫いたように見えた瞬間、大きな爆発が起こり、ユージオとアドミニストレータは後方へ吹き飛ばされました。
この場面の作画は、回前半のキリトvsユージオのシーンとは違い、勢いがあって素晴らしいものでした。剣を押し込むユージオの表情や手の動きに迫力がありましたね。
爆風により、アドミニストレータの紫の衣は引き裂かれ消滅し、一糸まとわぬ姿となりました。
「でも、残念でした。いまの私の肌には、あらゆる金属オブジェクトは傷をつけられないの」
ユージオは “金属武器では絶対に傷つけられない” という言葉の意味を理解し、戦慄します。
もしアドミニストレータの言葉が真実なら、カーディナルの短剣を含むあらゆる剣による攻撃が無効となり、唯一残された攻撃手段は神聖術のみとなってしまうからでした。
ユージオが語る愛の定義
「かわいそうな子。せっかく約束してあげたのに。私に全てを差し出せばその分愛してあげるって。あなたがずっと求め続けていた永遠の愛、永遠の支配を、もう少しで手に入れることができたのに」
「違うよ、かわいそうな人。愛は、支配することじゃない。見返りを求めたり、取引で手に入れるものでもない。花に水を注ぐように、ただひたすら与え続けること……きっと、それが、愛なんだ」
ユージオは自身が考える “愛の定義” をアドミニストレータに語り、彼女の考えを否定しました。
愛の定義は難しいもので、本当に人それぞれですね。
ユージオの言葉を聞いたアドミニストレータは、薄っすらとした笑みを浮かべます。
「………残念ね。公理教会に反逆した大罪人の坊やを赦し、魂を救ってあげようとしただけなのに、そんなふうに言われるなんて」
“少女” から “支配者” へと変容していくアドミニストレータ。その底知れない威圧感に、ユージオは圧倒されていきます。
「時間はかかるけれど、あの子みたいに強制シンセサイズしようかしら。そうよ。あなたがご執心のサーティちゃん。私は眠っていたから見ていないけれど、とっても辛かったでしょうね」
神速のソニックリープ
アドミニストレータの誘惑に屈して唱えてしまった式句を拒み通し、心の扉を強引にこじ開けられてしまったアリス。
ユージオは、最愛のアリスに塗炭の苦しみを与えたアドミニストレータに恐怖し、一矢も報いず斃れることなど許されるわけがない、と立ち上がります。
このシーンは、アリスに対するユージオの強い想いがよく表れていますね。
「これが、最後の剣。最後の秘奥義」
ユージオが、覚悟を込めて放ったのはアインクラッド流突進技「ソニックリープ」でした。
その瞬間、ユージオの耳にキリトの声が蘇ります。
――いいかユージオ、秘奥義は俺たちの体を動かしてくれる。でも、動かされるままになってたんじゃ駄目だ。
――秘奥義と一体化して、足の蹴りと腕の振りで技を加速するんだ。それができれば、お前の剣は、風よりも速く敵に届く。
ユージオが放った “神速のソニックリープ” は、アドミニストレータが放とうとしていた術を消滅させ、紫の障壁と激突します。
「砕……け……ろ……ッ!!」
残された気力と体力の全てを込めて剣を押し込んでいくユージオ。
青薔薇の剣は、全ての金属を阻むはずの神聖文字をすり抜け、アドミニストレータに迫ります。しかし、あと一歩というところで、最高司祭は大きく後方へ跳び、攻撃術を放ってきました。
本能的に青薔薇の剣でガードしたユージオは、爆風で大きく吹き飛ばされ、柱に飾られていた大型の剣に激突してしまいます。
次回につづく…
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