©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
前回のつづき…

第六話のほとんどはアリシゼーション計画についての説明ですが、残りの時間は凛子と茅場の話になります。
この部分(凛子の話)に関しても原作をかなりカットしていますが、個人的にはとても良い出来だったと思いますね。
特に最後のシーンでは梶浦由記さんの音楽と山寺宏一さんの声に心を揺さぶられました。
狂気のカリスマ茅場晶彦
凛子と茅場の出会い
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凛子が茅場と出会った時、既に茅場は株式会社アーガス第三開発部長の肩書を持ち、年収も一億を超えていました。
当然ながら、日本で有数の若きセレブリティだった茅場にアプローチをかけた女子学生は数多くいましたが、茅場が選んだのは一歳年下の冴えない山出し娘だったのです。
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――その城にはいくつもの階層があって、その層ひとつひとつに街や森や草原が広がっている。長い階段で層をひとつひとつ昇っていくと、天辺には宮殿があって――
「そこには誰かいるの?」
――解らないんだ。すごく小さな頃は、毎晩夢のなかでその城に行けたんだ。毎晩ひとつずつ階段を昇って、少しずつ天辺に近づいていった。でも、ある日を境に、二度とその城には行けなくなった。くだらない夢さ、もうほとんど忘れてしまったよ。
つかみどころがない茅場がなぜ自分を拒絶しなかったのかを凛子は何度も自問しました。
――もしかしたら茅場は自分に助けを求めていたのか…?
しかし、その答えは常に否でした。
彼が欲していたものは最初から最後までただひとつ…
茅場の凶行を止められなかった凛子
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凛子と茅場が恋人同士だったのは、凛子が大学に入った年から修士課程が終わるまでの六年間。
そして、凛子が修士論文を書き上げたその翌日にあの忌まわしきSAO事件が起こります。
凛子はナーヴギアの基礎設計にも協力していたし、茅場がアーガスで作っていたゲームのことも知っていましたが、彼が何千人もの罪なき人を巻き込んだ人類史上最も残虐なデスゲームを開始しようとしていたことなど知る由もなかったのです。
茅場の残したわずかな痕跡から居場所(長野の山奥)を特定し彼の元に向かう凛子。
――目的は共犯者…ではなく彼をその手で殺すため。
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しかし、凛子には茅場を殺すことができませんでした。
このあたりの凛子の心情については原作小説でも詳しく書かれていません。
様々な意見があると思いますが、僕は茅場が昔と何一つ変わっていなかったからではないかと思いました。
目の前にいたのは変貌した大量殺人鬼ではなく、自分が愛した人そのものだったとしたら…彼女の行動に納得はできませんが理解はできます。
アスナの気持ち
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「わたしも、キリト君も、凛子さんを恨んだことは一度もありません」
「――それどころか……わたしは団長……茅場晶彦のことを本当に恨んでいるのかさえ解らないんです」
「確かにあの事件で、多くの人が亡くなりました。団長の犯罪は決して許されることではありません。でも……物凄くわがままな言い草ですけど、多分わたしは、あの世界でキリト君と暮らした短い日々を、これからも人生の最良のひとときとして思い出すでしょう」
アスナが凛子にかけた言葉…。
この時のアスナの言葉には賛否両論あるとは思いますが、僕がこの会話から感じたのはキリトもアスナも正義の使者などではなく、歪な心を持った一人の人間だということです。
自分がキリトやアスナの立場ならと考えると…凛子のとった行動と同じく納得はできませんが理解はできます。
凛子の耳に残った残響
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その夜、凛子は久しぶりに学生当時の夢を見ました。
何も知らなかったあの頃――大学の研究室やおんぼろの軽自動車に乗って出かけた湘南の海、そして二人だけのマンション…
もう二度と会うことのできない茅場とのかけがえのない日々を夢見ていたのかもしれません。
眠りの浅い茅場は、凛子より先にベッドから抜け出し、コーヒーカップ片手に朝刊を読むのが日課。
そして、凛子がようやく目を醒ましたのを見ると小さく苦笑し、おはよう、と言っていました。
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「本当に、困った人だな。こんなところまで来るなんて」
現実と夢の狭間で聞こえた穏やかな声…
――凛子の耳の底には、あの時と同じ低くソフトな声の残響が確かに漂っていました。
第六話は説明が多かったので六回に分けて感想等を書くことになりました。
面白くないと思う人も多い回だったかもしれませんが、僕は原作でもこの部分がとても好きで理解できるまで何度も何度も読み返したものです。
前半の説明部分は書き尽したのでもうこれ以上書くことはありませんが、後半の茅場の部分を少しだけ。
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茅場晶彦という人間を端的に表せば、子供の頃の陳腐な夢を諦められなかった中二病の極悪人といったところでしょうか。
彼の行った行為は許されることではなく顔を見るだけで吐き気がするという人も多いかと思います。
しかし川原先生は彼を描く時、圧倒的なカリスマ性を持つつかみどころのない孤高の天才で、なおかつユーモアや、年齢・身分を気にせず他人の能力や才能を愛する平等性まで兼ね備えた人物という彼の側面を前面に押し出します。
僕自身も茅場晶彦に対して悪いイメージを持っていませんが、同時にそれは非常に危険なことだとも思います。
いつの世も狂気に満ちたカリスマ性のある人物は厄介だなと再認識させてくれるキャラクターですね。
次回から舞台はまたアンダーワールドに戻ります。


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