©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
前回のつづき…

楽しかった”引き分けおめでとうの会”も終わりユージオと二人で寮に戻ったキリト。
まだ”酔っ払い”ステータスが消えていない感じのユージオを部屋に残して、日課であるゼフィリアの花の水やりへ。
キリトの前に現れたのはライオスとウンベールの二人組でした。
「喧嘩を売ってるのか?」
「ハハハ、とんでもない!上級貴族は、決して平民に何かを売ったりはしないのだよ。施すことはあってもな、ハハ」
ライオスは結構上手いこと言いますよね(笑)語彙も豊富ですし。
この世界の理イメージの力
引きちぎられたゼフィリア
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
去り際にライオスが胸に挿していった花の蕾を見たキリトは花壇の奥に向かって駆け出しました。
キリトが苦労して育て、あと僅かで咲きそうになっていた二十三本のゼフィリアの苗たちは、全て無残に引きちぎられていたのです。
アニメではカットされていますが、《他人の所有物を故意に損壊する》ことは完全なる禁忌目録違反なのに、なぜライオスたちは実行できたのかとこの時キリトは疑問に思っています。
第二話で物置小屋に鍵をかけなかったユージオとキリトのこんな会話がありました。
「鍵かけなくていいのか?」
「なんで?」
「なんでって?盗まれたり…」
「大丈夫だよ。盗みをしてはいけないって禁忌目録に書いてあるじゃないか」

このようにこの世界アンダーワールドでは禁忌目録は絶対の法であり、いかに高等貴族であろうとも逆らえないはずなのです。
では自分と他人の所有権をどのように判別するのかですが、オブジェクトの所有権は誤解の余地なく規定されています。
自分の持ち物の《ステイシアの窓》を開くと所有状態(ポゼッション)を示す”P”の記号が隅に小さく表示されています。
つまり”P”マークがないオブジェクトは全て自分のものではないので盗んだり壊したりすることはできないということになります。
今回のケースでは、植物そのものには所有権は存在しませんが、その植物が根付いている土、つまり土地にはあります。
背後の花壇は学院の敷地ゆえに、そこに咲いているアネモネは学院の所有物、ゼフィリアが植わっているプランターはキリトが六区で買ってきた私物なので、そこに生えるゼフィリアは当然自動的に自分の所有物になるとキリトは考えていました。
しかし、そこまで考えた時にキリトはあることに気付きます。
それは、プランターの”土”は学院の土地から掘ったものでもキリトが市場で買ってきたものでもなく、央都の外の誰の所有物でもない原野から運んできたものということでした。
キリトはそのことを数人の生徒に話していましたが、ライオスたちがそれをどこからか聞きつけ《所有権の存在しない原野の土に生えているのなら、その植物は誰のものでもない》と判断したならば禁忌目録違反にはなりません。
どこの世界にも法の抜け穴をかいくぐる輩は存在するということですね。
《イメージング・システム》の実験
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「はじめはただの実験だった」
「北帝国ではけして咲かないといわれているゼフィリアの花。リーナ先輩が好きだといっていたその花を、俺のイメージ力だけで咲かせることができるのかどうか」
なぜゼフィリアの花を育てはじめたのかについてを回想で簡単に説明してくれていますが、もう少し詳しく書いたみたいと思います。
まず、ゼフィリアの花がここ《ノーランガルス北帝国》では咲かないといわれている理由からです。
そもそもゼフィリアは《ウェスダラス西帝国》の固有種であって、北帝国では自生はおろか栽培すらされていません。
帝国間の交易は小規模ながら行われているので、切り花や鉢植えなんかが売られていても不思議ではないのですが、この世界には《花職人》という天職が存在しないためそれもありません。
なぜ僕たちの世界と違って花を育てる職業がないかについてですが、第七話で少し説明した空間リソースの概念が絡んできます。
農作物なんかを育てるには神聖力というリソースが必要であり、それは有意義にそして有効に使わなくてはいけません。
美しいだけで食べられもしない花を個人で育てる程度ならともかく商売にするのは、限られた神聖力の無駄遣いになるので花職人などという天職はこの世界に存在しないとのことです。
ただし、同じく第七話で説明した”四大聖花”だけは通常の花と異なり《薬草商人》の天職についている人によって農場で育てられています。
四大聖花は放出リソースの多い花の代表格ですからね。

では、美しいだけで放出リソースも多くないゼフィリアがなぜこの北帝国に入ってきたのかですが、実は花は売っていなくても種は売っていました。
ゼフィリアの種はすり潰して粉にすると、バニラのような甘い匂いを放つため、お菓子に使う香辛料(バニラエッセンスのようなもの)として少量ですが輸入されていました。それをキリトが手に入れたということになります。
キリトはさまざまな実験を行ってゼフィリアが北帝国で咲かない理由を”この世界の人間たちがそう信じているから”と結論付けます。
住民の”思い込み”というイメージが、主記憶装置内の《ゼフィリア》のバッファデータをそのように規定しているということですね。
では、”ゼフィリアの花は北帝国では咲かない”という《住民の常識》を超える強度のイメージをゼフィリアの種に集中させて、一時的にでもバッファデータを上書きできれば花を咲かせることができるのではないかというのがキリトの実験でした。
なぜこんな実験をしようと思ったかについてですが、キリトはこの世界においてイメージの力が物事の結果を左右する非常に大きな要因になると考えていたからです。
俺の推測したとおり、もしこのアンダーワールドが《ニーモニック・ビジュアル・データ》によって構成された仮想世界なら、イメージ力は物事の結果を左右する巨大なファクターとなるはずだ。なぜなら、俺やリーナ先輩が見たり触れたりする全てのものはポリゴンデータではなく、フラクトライトから抽出された《記憶イメージ》だからだ。
個人個人で微妙に異なるはずのイメージ・データをなぜ共有できるのか……それは恐らく、多くのフラクトライトから出力されるデータを、《主記憶装置》とでも言うべきものにバッファし、そこでデータの平均化を行うからではないか。ならば、そのバッファデータにすら影響するほど強烈なイメージを発するフラクトライトが存在した場合、事象が個人の意志力によって書き換えられる、というようなとんでもないことが起きると想像できる。
ソードアート・オンライン10 アリシゼーション・ランニングより
さすがに数万人分のイメージをキリト一人のイメージ力で書き換えるのは困難ですが、その数が数十人や数人なら…。
毎日毎日『ゼフィリアの花は西帝国以外では咲かない』と念じまくっている人などそうそういないはずなので自分が毎日必死でイメージを集中し続ければ…というのがキリトの考えでした。
ちなみに上記の理由によりユージオにも今育てているのがゼフィリアだとは言っていません。(ユージオはキリトが市場できまぐれに買ってきた正体不明の種だと思っている)
結果、四度目の挑戦にしてようやく蕾まで育ち、後は咲くだけという状態だったのです…。
謎の声とゼフィリアの復活
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
キリトはこの時、ゼフィリアの苗たちに三つのことを仮託していたのを悟ります。
第一の理由は”アンダーワールドにおけるイメージ力の実験”。
そして第二の理由は”リーナ先輩に本物のゼフィリアを見せてあげたかった”こと。
最後の第三の理由は回想でも語っていた”異国の土で懸命に咲こうとしているこの花たちに、自分自身を重ねていた”ことでした。
両手の中で儚い光の粒を僅かに散らしながら消え去る蕾たちを見てキリトは号泣します。
その時、どこからか不思議な声が聞こえてきました。
――信じなさい。
――異国の地でここまで育った花たちの力を。そして、その花をここまで育てた、あなた自身の力を。
この声の主はキリトの前髪あたりを定位置にしているアレですね。
アニメは原作をがっつりカットしているのでここで初登場になったようです。
声のイメージは自分が想像していたのと少し違いましたが、本名さんの声を久しぶりに聞けてうれしいです。
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
「心からいずる意志…心意」
謎の声の主に促され、キリトは四大聖花の力を借りてゼフィリアを復活させます。
やっぱり四大聖花が全部きれいに咲いています(笑)
七話を見た時点ではただのミスかなと思ったのですが、やっぱり四大聖花の設定はアニメに反映されなかったみたいですね。
四つに分割された花壇で栽培されている聖花たち……満開の青いアネモネだけでなく、まだ蕾もつけていないマリーゴールド、球根から短い茎だけを伸ばすダリア、地面に這い回る根だけしかないカトレアまでが、薄闇の中で仄かな緑色の光を帯びている。
ソードアート・オンライン10 アリシゼーション・ランニングより
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
「………ありがとう」
ゼフィリアの復活を確認したキリトは、花壇の四大聖花たちと不思議な声の主に向けて礼を言うと、所有権をアピールするために制服の襟から校章のピンを外しプランターの端にそっと立てました…。
リーナ先輩の卒業と上級修剣士になった二人
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三月末の卒業トーナメント決勝戦。
ソルティリーナ・セルルト次席上級修剣士は、ウォロ・リーバンテイン主席上級修剣士を破り、北セントリア修剣学院を第一位の成績で卒業しました。
リーナ先輩の滑舌は終始気になりましたが、試合中の気合いの入った声はよかったですね。
卒業式の日、キリトが育てた満開のゼフィリアの鉢植え(アニメでは花束かな)をもらったリーナ先輩の表情はとてもかわいかったです。
リーナ先輩は卒業式の二週間後、《帝国剣武大会》に出場しましたが、残念ながら緒戦でノーランガルス騎士団代表と当たり惜しくも敗れました。
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それから数か月後、二人は無事進級し得点上位の十二人だけが任命される上級修剣士になりました。
「キリト上級修剣士殿はなんで僕らがここにいるのか忘れておいでじゃないでしょうねと思っただけだよ」
「忘れるかよ。ようやくここまで来たんだぜ」
「うん、もう少しだね」
キリトとユージオが上級修剣士になったところで八話が終わりました。
原作小説のアリシゼーション編二巻目「ソードアート・オンライン10アリシゼーション・ランニング」もここまでで終わりです。
アリシゼーション・ランニングはこの世界の根幹を為すさまざまなシステムの説明が主なので人によっては面白くないと感じるかもしれませんが、個人的にはオーシャン・タートルでの説明回(第六話)等、好きな話が多いです。
それでは、次回はキリトとユージオ、そして傍付きになったティーゼとロニエの話「貴族の責務」です。


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