©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
前回のつづき…
第八話「剣士の矜持」のあらすじと感想②
楽しかった「引き分けおめでとうの会」も終わり、ユージオと二人で寮に戻ったキリトは、まだ “酔っ払い” ステータスが消えていない様子のユージオを部屋に残し、日課であるゼフィリアの花への水やりに向かいました。
そこでキリトの前に現れたのは、ライオスとウンベールの二人組でした。
「喧嘩を売ってるのか?」
「ハハハ、とんでもない!上級貴族は、決して平民に何かを売ったりはしないのだよ。施すことはあってもな、ハハ」
ライオスは、結構上手いこと言いますよね(笑) 語彙も豊富ですし。
ライオスとウンベールによって引きちぎられたゼフィリア
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去り際にライオスが胸に挿していった花の蕾を見たキリトは、花壇の奥に向かって駆け出しました。
キリトが苦労して育て、もう少しで開花しそうだった23本のゼフィリアの苗は、全て無残に引きちぎられていました…。
アニメではカットされていますが、《他人の所有物を故意に損壊すること》は完全なる禁忌目録違反です。それにもかかわらず、ライオスたちはなぜそれを実行できたのか、この時キリトは疑問に思っていました。
第二話で、物置小屋に鍵をかけなかったユージオとキリトの間で、次のような会話がありました。
「鍵かけなくていいのか?」
「なんで?」
「なんでって?盗まれたり…」
「大丈夫だよ。盗みをしてはいけないって禁忌目録に書いてあるじゃないか」
アンダーワールドにおける所有権とPマークの意味
このように、アンダーワールドでは禁忌目録が絶対の法となっており、どんなに身分の高い貴族であっても、それに逆らうことはできないはずなのです。
では、自分と他人の所有権をどのように判別するのでしょうか。
この世界では、オブジェクトの所有権は誤解の余地なく規定されています。
自分の持ち物の「ステイシアの窓」を開くと、所有状態(ポゼッション)を示す “P” の記号が隅に小さく表示されるのです。
つまり、Pマークが付いていないオブジェクトは全て自分のものではないため、盗んだり壊したりすることはできないということになります。
禁忌目録の抜け穴を突くライオスの狡猾さ
今回のケースでは、植物そのものには所有権は存在しませんが、その植物が根付いている土地には所有権があります。
背後の花壇は学院の敷地にあるため、そこに咲いているアネモネは学院の所有物となります。
一方、ゼフィリアが植えられているプランターはキリトが六区で購入した私物なので、そこに生えるゼフィリアは当然自動的に自分の所有物になると、キリトは考えていました。
しかし、そこまで考えたとき、キリトはあることに気づきました。
それは、プランターの “土” が、学院の土地から掘ったものでもキリトが市場で購入したものでもなく、央都の外にある誰の所有物でもない原野から運んできたものだったということです。
キリトはそのことを数人の生徒に話していましたが、ライオスたちがそれをどこからか聞きつけていたようです。そして、《所有権の存在しない原野の土に生えている植物は、誰のものでもない》と判断したのなら、禁忌目録違反にはなりません。
どんな世界にも、法の抜け穴をかいくぐる輩は存在するものですね。
キリトがゼフィリアを育て始めた理由とイメージング・システムの実験
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「はじめはただの実験だった」
「北帝国ではけして咲かないといわれているゼフィリアの花。リーナ先輩が好きだといっていたその花を、俺のイメージ力だけで咲かせることができるのかどうか」
アニメでは、キリトがなぜゼフィリアの花を育て始めたのかについて、回想シーンで簡単に説明されていました。しかし、ここではもう少し詳しく書いてみたいと思います。
まず、ゼフィリアの花がここ「ノーランガルス北帝国」で咲かないとされている理由から説明しましょう。
そもそもゼフィリアは「ウェスダラス西帝国」の固有種であり、北帝国では自生どころか栽培すらされていないのです。
帝国間の交易は小規模ながら行われているため、切り花や鉢植えなどが売られていても不思議ではありません。しかし、この世界には “花職人” という天職が存在しないため、そのようなこともありません。
僕たちの世界と違って、この世界になぜ花を育てる職業が存在しないのかについては、第七話で少し説明した “空間リソース” の概念と関連しています。
農作物などを育てるためには “神聖力” というリソースが必要であり、それは有意義かつ効率的に使用しなければなりません。
美しいだけで食用にならない花を個人的に育てる程度ならまだしも、商売として扱うのは限られた神聖力の無駄遣いになるため、この世界には花職人という天職は存在しないのです。
ただし、同じく第7話で説明したように、“四大聖花” だけは通常の花とは異なり、「薬草商人」の天職を持つ人々によって農場で育てられています。
四大聖花は、放出リソースの多い花の代表格ですからね。
では、美しいだけで放出リソースも多くないゼフィリアが、なぜこの北帝国に入ってきたのでしょうか。実は、花そのものは売られていませんでしたが、”種” は販売されていたのです。
ゼフィリアの種をすり潰して粉にすると、バニラのような甘い香りを放つため、お菓子に使う香辛料(バニラエッセンスのようなもの)として少量ながら輸入されていました。キリトはそれを手に入れたのです。
キリトはさまざまな実験を行った結果、ゼフィリアが北帝国で咲かない理由は、”この世界の人間たちがそう信じているからだ” と結論付けました。
つまり、住民の “思い込み” というイメージが、主記憶装置内のゼフィリアのバッファデータをそのように規定しているのです。
キリトの実験は、”ゼフィリアの花は北帝国では咲かない” という住民の常識を超える強力なイメージをゼフィリアの種に集中させることで、一時的にでもバッファデータを上書きできれば、花を咲かせることができるのではないかというものでした。
アンダーワールドにおけるイメージ力の重要性
キリトがこのような実験をしようと思ったのは、この世界においては “イメージ力” が物事の結果を左右する非常に大きな要因になると考えていたからです。
俺の推測したとおり、もしこのアンダーワールドが《ニーモニック・ビジュアル・データ》によって構成された仮想世界なら、イメージ力は物事の結果を左右する巨大なファクターとなるはずだ。なぜなら、俺やリーナ先輩が見たり触れたりする全てのものはポリゴンデータではなく、フラクトライトから抽出された《記憶イメージ》だからだ。
個人個人で微妙に異なるはずのイメージ・データをなぜ共有できるのか……それは恐らく、多くのフラクトライトから出力されるデータを、《主記憶装置》とでも言うべきものにバッファし、そこでデータの平均化を行うからではないか。ならば、そのバッファデータにすら影響するほど強烈なイメージを発するフラクトライトが存在した場合、事象が個人の意志力によって書き換えられる、というようなとんでもないことが起きると想像できる。
ソードアート・オンライン10 アリシゼーション・ランニングより
さすがに数万人分のイメージをキリト一人のイメージ力で書き換えるのは困難ですが、その数が数十人や数人であれば…
毎日毎日「ゼフィリアの花は西帝国以外では咲かない」と念じ続けている人は、そうそういないはずです。そのため、自分が毎日必死でイメージを集中し続ければ、上書きできるのではないかというのがキリトの考えだったのです。
ちなみに、上記の理由により、キリトはユージオにも今育てているのがゼフィリアだとは伝えていません(ユージオは、キリトが市場できまぐれに買ってきた正体不明の種だと思っている)。
その結果、4度目の挑戦にしてようやく蕾まで育ち、あとは開花するだけという状態にまで到達していたのです…。
謎の声とゼフィリアの復活
キリトはこの時、ゼフィリアの苗たちに3つのことを仮託していたのだと悟りました。
第1の理由は、アンダーワールドにおけるイメージ力の実験でした。
第2の理由は、リーナ先輩に本物のゼフィリアを見せてあげたかったということ。
そして最後の第3の理由は、回想シーンでも語られていたように、異国の地で懸命に咲こうとしているこの花たちに、自分自身を重ねていたことでした。
両手の中で儚い光の粒を僅かに散らしながら消え去る蕾たちを見て、キリトは号泣してしまいます。
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
その時、どこからともなく不思議な声が聞こえてきました。
――信じなさい。
――異国の地でここまで育った花たちの力を。そして、その花をここまで育てた、あなた自身の力を。
この声の主は、キリトの前髪あたりを定位置としている例のアレですね。
アニメでは原作の内容が大幅にカットされているため、ここで初めて登場することになったようです。
声のイメージは自分が想像していたものとは少し異なりましたが、本名陽子さんの声を久しぶりに聞けて嬉しく思います。
「心からいずる意志…心意」
謎の声の主に促されたキリトは、四大聖花の力を借りてゼフィリアを復活させました。
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やっぱり四大聖花が全部きれいに咲いています(笑)
七話を見た時点では単なるミスかと思ったのですが、やっぱり四大聖花の設定はアニメに反映されなかったみたいですね。
四つに分割された花壇で栽培されている聖花たち……満開の青いアネモネだけでなく、まだ蕾もつけていないマリーゴールド、球根から短い茎だけを伸ばすダリア、地面に這い回る根だけしかないカトレアまでが、薄闇の中で仄かな緑色の光を帯びている。
ソードアート・オンライン10 アリシゼーション・ランニングより
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「………ありがとう」
ゼフィリアの復活を確認したキリトは、花壇の四大聖花たちと不思議な声の主に向けて礼を言うと、所有権を主張するために制服の襟から校章のピンを外し、プランターの端にそっと立てました…。
リーナ先輩の卒業と上級修剣士になったキリトとユージオ
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3月末の卒業トーナメント決勝戦で、ソルティリーナ・セルルト次席上級修剣士はウォロ・リーバンテイン主席上級修剣士を破り、北セントリア修剣学院を第1位の成績で卒業しました。
リーナ先輩の滑舌は終始気になりましたが、試合中の気合いの入った声はよかったですね。
卒業式の日、キリトが育てた満開のゼフィリアの鉢植え(アニメでは花束?)をもらったリーナ先輩の表情はとてもかわいかったです。
リーナ先輩は卒業式の2週間後、「帝国剣武大会」に出場しましたが、残念ながら緒戦でノーランガルス騎士団代表と当たり、惜しくも敗れました。
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それから数か月後、二人は無事進級し、得点上位の12人だけが任命される上級修剣士になりました。
「キリト上級修剣士殿はなんで僕らがここにいるのか忘れておいでじゃないでしょうねと思っただけだよ」
「忘れるかよ。ようやくここまで来たんだぜ」
「うん、もう少しだね」
キリトとユージオが上級修剣士になったところで第八話が終わりました。
原作小説のアリシゼーション編2巻目「ソードアート・オンライン10 アリシゼーション・ランニング」もここまでで終わりです。
アリシゼーション・ランニングは、この世界の根幹を為すさまざまなシステムの説明が主なので、人によっては面白くないと感じるかもしれません。
しかし、個人的にはオーシャン・タートルでの説明回(第六話)等、好きな話が多いです。
それでは、次回はキリトとユージオ、そして傍付きになったティーゼとロニエの話「貴族の責務」です。
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